もう引き返すことはできないのか? ネットとメディアの関係上杉隆×小林弘人「ここまでしゃべっていいですか」(1)(4/4 ページ)

» 2010年01月12日 11時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
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ITビジネスに対する知見が低すぎる

新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に』(著・小林弘人氏、バジリコ)

 とにかく、インターネットの世界はいろんなトレンドが出てきては消えていっています。ゆえに全体像を掌握することはどんどん厳しくなり、それについて解説できる人はごくわずかしかいません。例えば「Twitterが流行している」といった表層的な話になりがち。その裏にはリアルタイムフィードやリアルタイム検索(最新かつ目的に合ったものを検索できるサービス)の台頭によって、人類が有史来、最速でニュースを享受できる環境が整いつつある。しかし、これらのことを学校では教えてくれない。またマスメディア自身もそのことについて思考停止、ないしは黙殺していますが、もはや引き返すことのできない次元に進んでいることは明白です。

上杉 ビデオにVHSとベータが出たとき、アダルトビデオ(AV)が火付け役になり、さらにAVソフトの充実していたVHSが市場競争でも勝利しました。とある編集者から聞いた話ですが、ある評論家はこんなことを言っていたそうです。「H画像を検索して、自分はインターネットに興味を持った」と。その人のように「エロ」からインターネットに入門したという人は多いのですか?

小林 多いどころじゃないでしょうね(笑)。統計が出ているわけではありませんが、初期にインターネットで「H画像を見たい」という人は多かったのではないでしょうか。エロ本を購入していた人が、インターネットを検索するという流れはすごく自然ですね。

 ただし初期のころは、ISDNの端末を家庭で購入するには価格が高かった。僕も個人で購入しましたが、東京にいながらアムステルダムの美術館の絵を表示しようとすると、優に30分以上かかりました。H画像については、最初はalt.newsというニュースグループで閲覧できました。それはメーリングリストの先駆的な存在で、細かく趣味嗜好によって画像投稿のグループが分かれていました。ただし、ポーン(ポルノ)に通じた特殊な英語力が求められましたね(笑)。

 本格的にインターネットが普及したと感じられたのは2000年ころから。内閣に「IT戦略本部」が設けられ、森首相は「IT革命」と言ったあたりでしょうか。新設された東証マザーズで、僕らから見たらただの怪しい企業も、IT企業だと名乗りどんどん上場していたころですね。後から審査基準がどんどん厳しくなりましたが、最初が“ザル”でしたから。東証もマスメディアも反省すべきでしょう。ITビジネスに対する知見が低すぎる。新聞も詐欺的企業を紙面でヨイショしていた時代ですよ。

 →第2回へ続く

上杉隆(うえすぎ・たかし)

1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。富士屋ホテル勤務、NHK報道局勤務、衆議院議員・鳩山邦夫の公設秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経て、2002年にフリージャーナリスト。同年「第8回雑誌ジャーナリズム賞企画賞」を受賞。

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年』(新潮社)、『小泉の勝利 メディアの敗北』(草思社)、『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書)など著書多数。


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