その善意は伝わらない?――ハイチ大地震に見る企業の社会貢献(1/2 ページ)

» 2010年01月27日 08時00分 公開
[泉浩人,INSIGHT NOW!]
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泉浩人(いずみ・ひろと)

株式会社ルグラン代表取締役共同CEO。慶應義塾大学経済学部卒業後、ジョージタウン大学経営大院修士課程(MBA)修了。三井銀行(当時)、フォード自動車などを経て、2002年からオーバーチュアの日本進出に参画。同社取締役として経営全般に携わる一方、大手クライアントや広告代理店に対してコンサルテーションを行う。2006年4月にSEM専業のコンサルティング型代理店である株式会社ルグランを設立。


 ハイチ大地震では、発生から11日後に、倒壊したホテルから男性が奇跡的に救出されるといううれしいニュースもある一方、亡くなった人の数は12万人を超えたという報道もあり、その被害は想像を絶する規模になっているようです。

 私も阪神淡路大震災の発生時、神戸市の東灘区で被災しましたが、発生から1週間は非常食として備蓄されていたカンパンと水、そして市役所で配給されるパンで空腹をしのぐという生活を経験しました。まして、日本に比べれば、はるかに社会基盤の整備が遅れているハイチにおいては、運よく難を免れた人々も、今後の生活の立て直しに大変な苦労が待ち受けているのではないか、と思うと本当に心が痛みます。

 このような中、特に米国はカリブ海と地理的に近いこともあってか、政府のみならず、企業からもさまざまな支援の手が挙がっています。こうした活動は、一義的には企業の「社会貢献」活動の一環として行われているものではありますが、一方で、中長期的には企業のブランドイメージの向上(もしくは支援に加わらないことによるマイナスイメージの回避)にも資するという、マーケティング的な「計算」があるのも事実でしょう。

 ところが、米国での報道を見ると、この度のハイチ大地震においては、企業支援に関する情報がソーシャルメディアを駆け抜けるうちに「一人歩き」を始め、せっかくの善意が正しく伝わらなかったり、あるいは人々の誤解が原因となって、予期せぬ非難や失望を招いてしまったというケースもあるようです。

約束した以上のサービスがあるというクチコミが広まってしまった

 アメリカン航空では、ハイチへの寄付を行ったマイレージクラブの会員に対して、寄付額に応じて250〜500マイルのボーナスマイルを提供すると発表しました。さらに、ハイチに特別便を飛ばし、水や食料などの支援物資の輸送も行いました。ところが、Twitter上では、どういうわけか「アメリカン航空はハイチに向かう医師や看護師のために無償で航空機を提供している」という話が広まり始めました。

 また、国際宅配サービスのUPSは、ハイチ支援のために100万ドル(約1億円)を寄付すると発表しました。ところが、こちらもTwitter上では「UPSがハイチ向けの荷物について、通常送料が50ドル以下となるサイズのものについてはすべて無料で配送する」という噂が一人歩きしてしまいました。

 その後、アメリカン航空では2万3000人余りのフォロワーに対して、あわてて「航空機の無償提供の予定はない」というメッセージを出して、「火消し」に走らざるを得ない状況となりました。もちろん、これはアメリカン航空の責任ではありませんが、結果的には人々の期待を「裏切る」形となったことで、同社が行った支援そのものに対する評価を下げてしまう可能性が生じてしまいました。

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