ジャパン発の“double dip”という懸念藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年02月01日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 青息吐息の先進国を尻目にV字型回復を遂げる中国経済。しかし米国も昨年第4四半期は年率で5.7%成長(通年ではマイナス2.4%)を達成し、支持率が低下し続けているオバマ政権にとっては朗報となった。しかしこれで二番底(英語ではdouble dipと言う)懸念がすっかり消えたというわけにはいかない。

米国経済の不安

英エコノミストが電子版でこの問題について論じている(関連リンク)

 景気については常に慎重派であるエコノミスト誌であるだけに、米経済が心配な理由を並べ立てている。その要旨をかいつまんで紹介しよう。

 5.7%という第4四半期のGDP(国内総生産)成長率は、2003年以来という高い数字である。成長を押し上げたのは民間の在庫投資および輸出の増加だ。通年ではマイナス2.4%だったが、この2年間、雇用が減少し続けた米国人にとっては、第4四半期の数字は最悪期を脱したという明確なサインとなった。

 しかしこのような高い成長率が今後も維持できるかどうかには疑問がある。というのも、米国経済のファンダメンタルズが弱いからだ。5.7%の成長率のうち、3.4%分は在庫の増加がもたらしたもの。すなわち企業が経済が悪化したときに絞った在庫を通常の状態に戻すために在庫を積み上げた。これは消費が一時的に増えたことによるものだが、ここから新しい需要が生まれなければ、この在庫積み増しによる成長率の押し上げ効果はすぐに消えていく。

 勢いを失っていることを示す兆候はすでに出ている。コンサルティング企業のマクロエコノミック・アドバイザーによれば、在庫積み増しのほとんどは2009年10月時点のもの(年率換算で実に16.4%にも達していた)。しかし11月にはこの伸び率は大幅に低下している。さらにこの第4四半期を通しても雇用は減少している。雇用が増えない中で成長を維持するのは困難だ。

 さらに新しい需要が生まれるかどうかも定かではない。個人消費は極端に弱く、この四半期でも2.0%しか増えなかった(第3四半期は2.8%だった)。個人消費は2010年いっぱいあまりさえない状態が続くだろう。最近のIMF(国際通貨基金)のリポートによれば、金融危機の中で家計がかなり大きなダメージを被ったため、貯蓄率は景気が回復する過程で上昇するという。実際、第4四半期の貯蓄率は4.6%と前四半期の4.5%をわずかながら上回った。

 また生産能力が需要を上回っているために設備投資もあまり期待できない。住宅も商業用不動産も供給過多になっており、建設で雇用が増えるような状況にない。新規住宅着工件数は通常時の3分の1に落ち込んだままだ。工場の設備稼働率は景気後退に陥る前の水準よりもかなり低い。

 さらに政府による景気刺激は2010年中に消える。第4四半期には2%分貢献した財政による景気対策も今年半ばには1%分ぐらいしか効果がなくなり、それ以降はまったく貢献しない。州の財政は悪化しており、2009年でもGDPでマイナス0.1%と足を引っ張っていた。

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