何もないところに欲を作り出す――「ブラウザ三国志」のビジネスモデル野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/3 ページ)

» 2010年02月09日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 無料経済とも言われるインターネット上で、オンラインゲームがなぜユーザー課金に成功できたのか? それは、「欲を作り出すのがうまいビジネスだからだ」と筆者は考える。洋服でも家具でも、バーチャルなものを買う行為には共通点がある。共通点とは「最初からバーチャルアイテムが欲しくて始める人はいない」ということである。バーチャルな高級肥料が欲しくて、農園アプリを始める人はいないはずだ。

 「ゲームとしてよくできている」「動画として面白い」などというコンテンツ品質は、ただそれだけではマネタイズに結びつかない。マネタイズの条件はユーザーに、ゲームを始めてから財布を開くまでの心境の変化を起こさせることである。その変化を、「フック(始める理由)」「リテンション(続ける理由)」「マネタイズ(支払う理由)」と呼ぶことにする。この3ステップを途切れさせないように注意しながら、ユーザーの欲を醸成していく。お金を払ってまで使い続けたいと思わせる“何か”を作り出すのだ。

 今回のコラムでは、フック・リテンション・マネタイズ理論を使ってソーシャルゲームの構造を図解。その具体例として、最近人気を集めているmixiアプリ「ブラウザ三国志 for mixi(mixi内のページにリンク)」を紹介する。

ブラウザ三国志(出典:AQインタラクティブ)

ソーシャルゲームの二重構造

 ソーシャルゲームのビジネスモデルを描くと下図のようになる。ポイントは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)にもフック・リテンション・マネタイズの仕組みがあり、その上にソーシャルゲームが乗っているという二重構造である。

SNSとソーシャルゲームのフック・リテンション・マネタイズの仕組み

 「簡単なゲームだからビジネスも簡単」というわけにはいかない。SNSとソーシャルゲームの二重構造により、ゲームへの支払いというゴールにたどり着くまで、これだけの道のりがかかるのだ。「ユーザーの気持ちと欲を育てる」道のりも長くなり、従来のオンラインゲームよりむしろ難しい点もあるかもしれない。

 もともとSNSは、同級生などのリアルの人間関係をフックとして集客するビジネスである。そこに日記という継続性が求められるコンテンツを置くことで、ユーザーの定着(リテンション)を促している。そして、自ら情報発信をしたり、SNSだけの友人を作ったりと、SNSでの活動が活発になるとリテンションが高まる。SNSコミュニティは、リアル友人関係とSNSでの人間関係を合わせたものとして形成される。

 ソーシャルゲームは、このSNSコミュニティをフックに利用する。自社ゲームへの定着には、日記とは違うユーザー交流、継続性を持たせたゲーム作り、ゲーム内コミュニティの育成などの方法がある。その先のマネタイズのフェーズでは、現行の広告収入やアイテム課金のほかに、ゲーム自体の有料化やプラットフォームとの折衷的な料金システムなど、さまざまな可能性が考えられる。

 現在、広告単価やレベニューシェア(利益分配)の割合など具体的な料金が話題になるものの、リテンションからマネタイズへの「流れ」についてはほとんど議論されていない。重要なのは、フック・リテンション・マネタイズの各フェーズがうまく流れるように設計することである。図中では例として、1つの「流れ」を矢印で示している。どういう「流れ」を作るかが、そのゲームの基本設計となる。もちろん、これからさまざまなゲームが出ることで、新たな矢印が描かれるだろう。

 今回は、「ゲームの友人」から「アイテム課金」につなげる流れに注目して、ブラウザ三国志の事例を考えたい。前回も述べたように、オンラインゲームの楽しさは「見知らぬ人と一緒にプレイできること」にある。そこでしか会えない「ゲームの友人」がいるからこそゲームへの執着が生まれる。それが、何もないところに「欲」を作り出す鍵となるのだ。SNSのリアル人間関係と、ゲーム別に形成されるバーチャル人間関係をどうマネジメントするか、この新しい課題について考えてみよう。

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