ユニクロの新ジーンズブランド「UJ」の恐るべき破壊力それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年03月01日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ユニクロはジーンズ市場を制するか

 UJのインパクトはそのポリシーにある。

“UJ”は、3つの「F」を追求する 本当に良いジーンズに欠くことのできない「FIT」、「FABRIC」、「FINISH」、という3つの「F」を追求しつつ、歴史や伝統に縛られない新しいジーンズを創造していきます。FIT:あらゆる人が自分にとって最高の1本を選べる豊かなフィットバリエーション FABRIC: 厳選された生地と糸が生み出す、世界中のジーンズ好きが驚くほどの素材 FINISH:日本生まれの高度な技術を用いた縫製と加工(同社ホームページのニュースリリース

 ユニクロの気合いがひしひしと伝わってくる。

 かつてロードサイド店だったころ、価格が安く品質はそこそこだったユニクロは、SPA方式の採用とともに品質向上に全力を挙げて「品質だけで勝負したらどこもかなわない」と大手アパレルメーカー幹部が口にするまでに一気になった。次にヒートテックやブラトップ、新しいところでは姿勢矯正下着のスタイルアップインナーなどの「機能性」を高めた。さらに、デザイナーのジル・サンダーと契約し「+J」ブランドを上市しただけでなく、デザイン監修契約によってデザイン性の向上も図っている。

 「価格」は人によって安く感じたり高く感じたりするが、金額だけは絶対値だ。安く感じるか否かは、人の金銭感覚だけではなく価格に対していかに「価値」が高いかによる。ユニクロはその「価値」を高め続けているのだ。

 「バリューライン」で考えてみよう。横軸に製品・サービスの「価格」、縦軸に「価値」の2軸を取ると、「安くてそれなりの価値のもの」から「高くて価値の高いもの」という比例した関係ができあがる。それがバリューラインで、世間の相場だ。アパレル市場、もしくはカジュアルウエア市場でユニクロ全体としては、低価格なのに高価格のものと同等の価値である「スーパーバリュー」のポジションをとる戦略である。

 では、UJがジーンズ市場に与えるインパクトを考えてみよう。ジーユーの990円ジーンズからUJのプレミアムラインである3990円で、バリューラインの価格レンジはすべて押さえたことになる。「ユニクロとしての価格に見合った品質」に従った、「ユニクロとしてのバリューライン上のラインアップ」である。すると、何が起こるか。ほとんどの、いや、すべてと言っていいかもしれない。競合となる他社ジーンズは、ユニクロの作ったバリューラインを下回る構図ができあがるのだ。

 競合の価値が低いのではない。しかし、価格と価値の2軸で考えれば、金額の絶対値が高くなるためバリューラインの下にポジションされてしまうことになるのである。

 今回のUJのインパクトは、スーパーバリューのポジションを取りに行くのではなく、自らのラインアップを「標準」として、競合をすべてバリューラインの水面下に撃沈させるという戦略であるということだ。「どうしても特定のジーンズブランドが好き」とか、「ずっとご指名の型番をはいている」とかでなく、こだわりがなければUJ以外のジーンズを購入するのは不合理であることになる。

 もちろん、人は経済合理性だけでモノを買うわけではない。筆者のご指名はエドウィン503ZZだ。しかし、もう1本となったら、「UJで十分かな?」と思ってしまう。昨今の消費者の購買行動はどんどん合理的になっているのだから。

 ジーンズ市場はもはや勝負あった感が強い。ユニクロのジーンズは世界にどこまで広がっていくのだろうか。次に狙うのはどの市場か。そしてアパレル市場をユニクロが席巻していく先に、どんな風景が待っているのだろうか……。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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