先日、銀座松屋で開かれた「世界の中古カメラ市」。同様の中古カメラ市は、場所や主催を変えて年に数回開かれる。基本的には完動品の売買なのだが、格安の掘り出し物も見つかるので、なるべく覗くようにしている。
そのカメラは、あるカメラブースのガラスケースの上に、ジャンク品としてほかのカメラとともにゴロゴロと転がされていた。FUJIのレンズ切り替え式ハーフカメラ「TW-3」、通称「TWING」である。ものの本には「フジカツイング」と書いてあるが、本体にはどこにもその名称はない。おそらく販売時のニックネームだったのだろう。資料写真では見たことがあったが、実物を見たのは初めてであった。
聞くと、別に壊れてはいないようだが、バッテリー切れのためにジャンク扱いであるという。「バッテリー切れなら電池を替えればいいじゃないか」と思われるだろうが、TW-3はバッテリーが完全にはめ殺しになっており、バッテリーがなくなったらメーカーに送って交換するというスタイルであったのだという。
まあおそらく、誰かバッテリー交換をしたことがある人もいるだろうと思い、ほかのいくつかのカメラとともに購入した。価格は1050円。
TW-3は、調べれば調べるほど変なカメラである。発売されたのは1985年だが、このころはすでにハーフカメラのブームは終わっていた。ハーフカメラの華やかりし時代は1960年代のことで、1970年代に入ってからはすでに一部メーカーのヒット作しか延命できておらず、1970年代末には完全にブームは終了していた。
それが突然、1984年にコニカが「レコーダー」というコンパクトなハーフカメラを投入した。これが契機となったのか、あるいは対抗意識を燃やしたのか分からないが、翌年FUJIがTW-3を投入してくるのである。さらに2年後、京セラが「サムライ」を発売し、このころちょっとしたプチブームを形成した。
TWINGという名の通り、実はWIDEとTELE2つのレンズを切り替えて使う。WIDE側は35ミリ換算で約32ミリ、TELEは約97ミリである。ハーフカメラといえば、F1.4やF1.9など明るい単玉レンズを搭載しているものが多いが、このカメラはF8。レンズ自体はもっと明るいものだろうが、あえてF8の固定絞りにしている。
これはおそらく、フォーカス合わせをしないという前提で、なるべく被写界深度を深く取るために絞り込んでいるのだろう。ただ全域パンフォーカスではなく、WIDEもTELEもゾーンフォーカスとなっている。
表面の円形レンズカバーをWIDE側に回すと、WIDEレンズが現れる。同時にファインダー内では、広角用の凸レンズが挿入されて、ちゃんと32ミリの画角で見ることができる。しかし、しょせんただの凸レンズなので、ファインダー内の映像は周辺の収差がひどい。またWIDEモードにすると、自動的にフラッシュがポップアップする。光量が十分に足りている状態でも、問答無用でポップアップしてくるのは、微妙にありがた迷惑な機能である。
WIDE側は近距離撮影用に、0.5〜1メートル用のマクロモードを備えている。レバーはスプリングで常時無限遠側に戻るようになっており、マクロ撮影するときだけ、レンズ横のレバーを押し下げた状態で撮影する。手の込んだことに、マクロモードにすると、ファインダー内ではパララックス(視差)補正のために、左上角が少しマスクされる。
一方、TELE側は4〜6メートル、6〜12メートル、12メートル〜無限遠の3段ゾーンフォーカスだ。こちらのレバーは、スライドするとその位置で固定される。またファインダー内からはWIDE用のレンズが抜けて、ほぼ素通しとなる。
この仕掛けを内側から見ると、もっと面白い。WIDEレンズは撮像面から真っ直ぐ垂直な位置にあるが、TELEレンズは横にずれた格好だ。これをミラーを2つ使って、横位置からリレーしてくるのである。つまり、フランジバックが全然違うTELEレンズを、カメラ本体の厚みを変えることなく折りたたんで格納したということである。
この仕組みはデジカメ時代になってから、ボディからレンズが飛び出さないズームレンズ構造として復活することになるわけだが、それは20年ぐらい後の話である。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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