いつまで“丼勘定”は続くのか 出版界の悪しき慣例相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2010年03月11日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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数億円の企画がパー

 零細モノカキの筆者の場合、初版の刷り部数や印税の額はたかがしれているのだが、これが億円単位になってくると事情は深刻だ。

 「某キー局にン億円やられた」――。過日、旧知の大手広告代理店営業マンと会食した際、こんな物騒な言葉が飛び出した。「やられた」という言葉の背後にはこんな事情が潜んでいた。在京キー局がゴールデンタイムの目玉番組企画を立て、この代理店営業マンとともにスポンサー獲得に動いた。順調に制作費の枠が埋まった段で、「『局上層部からゴーサインが出ず、企画が頓挫した』との詫びが入った」というのだ。「出版界と同様、テレビ・広告業界も契約書ナシ、口約束の世界。不況の中でスポンサーを必死で募った努力が水の泡となった」――。筆者の顧問税理士と同様、読者の多くがポカンと口を開けてしまうだろうが、これは紛れもなく実話なのだ。

 筆者も同じような経験を持つ。数年前、ある大手出版社から小説のオーダーをもらい、半年間の取材と執筆を経て入稿した。が、編集者は多忙を理由にいまだに打ち合わせすら行わず、刊行時期すら未定だ。当然、印税はおろか、取材経費の精算もままならず。契約書を交わしておけば、と感じているのは言うまでもない。

 通常の業界ではありえない話だが、筆者の周囲、同業者の間でこの手の話は確実に存在する。また小説や漫画を原作に据えてドラマや映画の企画が持ち上がった際などに、契約書の有無がトラブルに発展したケースも少なくないのだ。

 零細モノカキの立場故、小説を書かせていただく、あるいはコラムを載せていただけるだけでもありがたい。日頃世話になっている出版界にあえて嫌味を言うのは、今後この手のトラブルが頻発することで、業界全体のイメージが低下することを強く危惧しているためだ。

 特に、アマゾンのキンドルやアップルのiPadといった電子書籍の普及とともに、異業種との協業が着実に増加傾向をたどると予想される中では、旧来の「口約束」、あるいは「丼勘定」が通用しなくなるのは確実なのだ。いや、通用しないどころではなく、協業自体が不可能になってしまう。契約書ナシの悪しき習慣は是正されるべきタイミングに来ている。

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