新人賞をとっても食ってはいけない……フリーライターの懐事情相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2009年12月10日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『ファンクション7』(講談社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥会津三泣き 因習の殺意』(小学館文庫)、『みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 佐渡・酒田殺人航路』(双葉社)、『完黙 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎 奥津軽編』(小学館文庫)、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。


 年末年始の長期休暇中に小説執筆に取りかかってみよう――。読者の中に、こう考えている人もいるかもしれない。また、旧態依然としたマスコミ界とは一線を画し、真に自分のテーマを追及しながら、ライターやノンフィクション作家を目指そうと考えている人もいるだろう。

 実は最近、筆者のもとには小説家やライターを目指すさまざまな年代の人たちから、どうやったらデビューできるかと頻繁に問い合わせをいただく。が、この際ハッキリ言わせていただくと、作家あるいはライターを専業とすることはお勧めしない。いや、やめておいた方が良い。まず、世間が勝手に抱いているイメージほどはもうからない。それにも増して作品を発表する場、すなわち媒体が減少の一途をたどっているため、先行きは極めて不透明だ。今回の時事日想は、自らのなりわいに触れながら、業界事情を深堀りしてみる。

減少の一途をたどる媒体

 小説家デビューを果たすには、根気よく出版社に作品を持ち込むという方法もあるが、さまざまな出版社が主催する文学賞に応募し、最終選考に残る、あるいは賞を取ることがデビューの早道だろう。

 が、本コラムで何度も触れてきた通り、世は深刻な出版不況の真っただ中にある。従来なら、大賞の他に特別賞などの形で入賞した作品も書籍化されるチャンスが多かったが、現在はそのようなケースは極めてまれだ。メジャータイトルのグランプリを受賞し、晴れて作品が単行本として世に出ても、一昔前と比べ、初版部数がはるかに少ない。要するに、印税が少ないのだ。筆者の感覚、あるいは他の作家から聞いた話を総合すると、一昔前の3分の2、あるいは半分のレベル。副賞の賞金もあるが、これとて切り詰めて生活しても1〜2年で食いつぶしてしまう程度のもの。言い換えれば、メジャーな賞を取ったとしても、とても専業作家として生活できるような金銭的な見返りは望めないのだ。

 惜しくも大賞を逃し、書籍化されなかった入賞作品の著者に対しては、版元が自社の文芸誌などで連載を持たせ、長い目で作家を育てるケースもあった。が、現在は文芸誌自体が部数を減らしているため、新人育成まで手がける余裕がなくなっている。

漫画も先細りの気配

 純文学、ミステリーなどの文芸畑と同様、フリーのライターが活躍する場であるノンフィクションも媒体が減っている。硬派なノンフィクションのテーマを扱っていた月刊誌、あるいは週刊誌は休刊(実態は廃刊)ラッシュが続いている。

 過日も優秀な後輩が「フリーのノンフィクション作家に転じたい」と相談を持ちかけてきたが、筆者は以上のような理由を並べ、思いとどまらせたばかり。確かに後輩は優秀な記者であり、硬派なネタを集め、これをルポにまとめる能力は高い。だが、過去に新聞協会賞の受賞歴がある先達の多くが優れたノンフィクション本を書いても、売り上げは芳しくないのが実状。非常に残念だが、読者の需要が減り続けているため、ノンフィクションという分野自体が急速に先細りしているのだ。

 新聞記者出身で相当な取材スキル、文章力があっても先行きが暗いのだから、学生新聞レベル、あるいは編集プロダクションでアシスタント経験がある、程度のスキルでは小さくなる一方のパイの中で、百戦錬磨の先達たちと互角に勝負できるはずがない。

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