若年貧困層が戦うべき相手は誰なのか?ちきりんの“社会派”で行こう!(1/3 ページ)

» 2010年03月16日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年1月23日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 近年、若年貧困層が立ち上がり、声をあげています。そのスローガンの中に「この年収では結婚もできない!」というタイプのものがあります。ちきりんは、若者層がひどく虐げられているといるという現状認識については同意見なのですが、この手のスローガンにはいつも違和感を感じます。

 それは、この「結婚できる給与額の要求」が、まさに日本が高度成長時代に作り上げてきた「年功序列賃金制度の維持」を意味しているからです。その主張の中では、給料とは「お金が必要な人に払うもの」であり、「仕事の成果に対して払うもの」とは位置付けられていません。だから、子どもの教育費や家のローンなど、一番お金が必要な50代の給料を高くして、薄給でも暮らしていける若者には安い給料を払うのです。

 日本では女性の給料は男性よりかなり低く抑えられていますが、この背景も同じでしょう。女性軽視うんぬんの前に、女性とは「一家を養わない人間」であり、「一家を養う必要のある」男性により多く払うのは当たり前だと考えられてきたのです。

 さらに、今は多くの企業で廃止されましたが、以前は大企業には「家族扶養手当」なども存在していました。給料とはまさに「家族を養うために必要なお金を支給する制度」だったのです。

 翻って現在、若者たちは「こんな年収では結婚できない」と自らの不遇を訴えます。けれど、もし今の段階でそれに必要な額を払えば、彼らは数年後には「こんな給料では子育てできない」と言い出すでしょう。そして10年後には「こんな給料では家のローンが払えない」、60歳になれば「こんな退職金では親も介護できない」と言い出すことになります。

 これをすべて満たしていけば、彼等の主張は「年齢が上がれば、必要な額も多くなる。したがって、中高年により多くを支払え」という主張となり、つまりは「年功序列賃金を維持してくれ!」という主張と同一となります。

 35歳の男性(妻と子どもあり)と、23歳の新卒1年目の男性(独身)が同じ仕事をしていたとしましょう。妻子がいる35歳の男性には35万円の給料を支払い、 22歳単身者には22万円を支払う。その代わり、22歳の男性が35歳になった13年後には35万円(+インフレ分)を支払うと約束する。これが年功序列賃金であり、正社員の給料はこのように決められています。

正社員の賃金カーブ(出典:2009年版中小企業白書)

 ところが非正規雇用では、一律の時給で給料が計算されます。同じ仕事であれば、労働者の年齢に関わらず時給は同じです。すなわち時給の仕事では賃金は年功序列ではなく、「同一労働・同一賃金」なのです。だから35歳妻子持ちの男性も、 22歳単身者と同額しか稼げなくなり、結果として「この年収では結婚できない」となる。これが現在起こっていることです。

 しかし、だからといって「非正規雇用の労働者にも、年功序列賃金制度を導入するべきだ!」というのが、本当にワーキングプアと言われる若者たちが主張すべきことなのでしょうか。

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