「気持ち、読んでる」、西友の「KY」絶好調!それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年03月30日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ウォルマートは日本人のキモチヨム

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 もちろん、KBF(Key Buying Factor)であるEDLPを実現させるためには、裏でKSF(Key Success Factor)となるEDLC(Every Day Low Cost)を実現しなければならない。西友は店舗運営の徹底した効率化を進め、生産性向上によって、販売管理費を500億円近く減らした。また組織や人材の育成にも手をつけ、2010年2月26日付日経MJの記事によると、陳列やレジ打ちなど複数業務を担える従業員を育成し、労働生産性は2年間で40%以上高まったという。明確なKSFとKBFと、それを支えるシステム、そして背後にあるウォルマートの巨大な調達力が整合しあって、生態系として完成しつつあるのだ。

 カジュアル衣料を見てみよう。ウォルマートの購買力を生かし、安いけど結構カッコイイ「Georgeブランド」を展開している。「SEIYU FASHION PROJECT」として、2009年は「あなたが思っているかもしれない『スーパーの服は安いけどダサイ』を、『安いけどカッコイイ!』に変えるプロジェクト」と公表して、庶民の支持を集めることに成功している。2009年9月にはなんと子供服のファッションショーまで開いた。

 あくまで「気持ちを読んでいる」のだろう。

 アパレルでカジュアル以上に目立つのが、2009年後半からさらに注力している「スーツ」だ。従来、7900円で展開していた紳士ビジネススーツを、2009年10月8日からGeorgeブランドに組み込み、業界最安値の5000円でセットアップスーツとして発売した。ここでもウォルマートの購買力を生かして中国で集中生産したり、カラーをブラックのみに集約したりして実現した価格だ。さらに、2010年2月から同じくGeorgeブランドで3800円の女性用就活スーツを発売。“氷河期再来”と言われる就職戦線に挑む学生を低価格スーツで応援するという。

 低価格衣料は「デフレの根源」と言われたり、海外の労働力搾取の犠牲・国内産業にダメージを与えると言われたりすることも多い。しかし、激安就活スーツは、実家からの仕送りゼロの学生が初めて1割を超え、さらに活動期間が延びるという厳しい環境下で、学生の「気持ちを考え」たら「ありがたい存在」となるだろう。

 ちょっとおとぼけなCMが楽しく、何かとだじゃれでKYに持って行く、西友の「KY戦略」。しかし、日本市場で消費者の気持ちを読むことがうまくなってきているように思う。これまでドイツや韓国など先進各国で進出に失敗しているウォルマートが、日本市場に腰をすえて挑んでいることの、象徴ではなかろうか。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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