「行政主導の記者会見開放はメディアの危機」――フリー記者たちがアピール(2/4 ページ)

» 2010年04月20日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

官公庁での記者会見開放の流れ

岩上安身(フリージャーナリスト) 私はこの会の立ち上げにあまり力を尽くしていないので、こうして壇上に上がることに恐縮しています。ただ、2009年の政権交代以降に起こった記者会見の一部オープン化について最前線で取材をしているので、記者会見開放の現場をある程度知っている者の代表という形でお話しさせていただきます。

 最初に記者会見オープン化の動きがあったのは、亀井静香大臣のもとの金融庁、岡田克也大臣のもとの外務省でした。この2省庁が先行していたのは、それぞれの大臣の強いイニシアチブがあったとともに、他省庁にない特殊性があったことにも触れておかなければなりません。

 外務省は他省庁と違って、記者会見の主催権が外務省にあります。由来は誰に聞いても分からないのですが、伝統的に外務省側が主催権を持っていて、他省庁は各記者クラブ側が持っています。そこで岡田大臣が記者クラブ側に記者会見開放の申し入れをしたところ、返事が引き延ばされて、期限を区切っても回答がなかったので、開放に踏み切るということになり、私たちのようなフリーランス、Webメディアや日本外国特派員協会の記者などが参加できるようになりました(「大臣会見に関する基本的な方針について」)。

 金融庁は他省庁と同じく、金融庁の記者クラブが主催権を持っています。これに対して、亀井大臣は就任早々、「記者会見に今まで排除されてきたフリーの記者なども参加できるようにしてくれ」と申し入れをしたのですが、これを記者クラブ側が拒否しました。そこで、「フリーランスやWebメディアに平等な機会を与えるために、自分自身で開催しよう」ということで、週2回、閣議後に記者クラブ側の定例記者会見直後に大臣主催の記者会見を行っています

フリージャーナリストの岩上安身氏

 この2省庁が突出して進んできたのですが、今、金融庁で新しい動きが始まろうとしています。ずっと分裂開催の異例な状態が続いていたのですが、金融庁広報室の事務方と記者クラブ側が「1本化できないか」と話し合いをしたのです。「大臣は高齢であり、身体的な負担がかかっているということもあるので一緒にした方がいいのではないか」「大臣が交代して亀井さんでなくなった時に、オープン会見の方が閉ざされてしまうのではないか」ということもあって、「統合して真の意味でオープン化した方がいいのではないか」という話し合いが、私たち当事者は含まれず、記者クラブと事務方で行われました。

 この案を受けて、亀井大臣が「フリーランスの人たちやWebメディアの人たちの話を聞いて、その意向を尊重してくれ。一緒になるのもいいし、別々の開催のままでも私は構わないけど、当事者の意見をくむように」と事務方に再三指示したことから、4月13日にヒアリングが行われました。これは公開で行われて、参加していた20人ほどの記者たちがUstream中継を行ったり、私もビデオカメラで撮った映像をYouTubeでアップしているので、ぜひご覧になっていただければと思います。

 ヒアリングではいろいろと活発な意見が出ましたが、基本的には「示された統合案に不服」というものがほとんどでした。というのは、オープン化されても、主催権は記者クラブが握り、運営に関して記者クラブ外の人はまったくタッチできないんです。例えば、誰かが「記者クラブに加盟して、記者会見に参加したい」と言っても、それを決める権利や口を出す権利もありません。記者会見にオブザーバー参加して、質問権があるだけという非民主的なものだったのです。

 「これでは承服できない」ということで、そのヒアリングに参加した人たちに呼びかけて、10人くらいの有志の会をとりあえず作って、金融庁の記者クラブに「対話をしよう」と呼びかけることにしました。呼びかけの文章を作ったり、どういう形でやるかを決めたりするのはこれからですが、まずは対話の場を作りたいと思います。

 この動きはおそらく他省庁にも広がっていくでしょう。どこの場においても、当事者である私たちのようなポジションにいる人と、記者クラブ側が恒常的に対話をしていけるような場を設けていきたいと思います。そうでないと現場でさまざまなことが起こりうると思いますし、新しい参加者についての問題も生じてきます。例えば、フリーランスの人が「記者会見に出たい」と言ってきた時に、近い立場の人がその人の代弁者として便宜を図ったり、参加を認める方向で働きかけたりしていくということが必要ではないかと思います。

 ただ1点、「私たちのような集まりが第2記者クラブになりはしないか」という懸念の声が私たちの中からも挙がっています。それはもっともな話です。今まで記者クラブは閉鎖的、排他的で、情報利権を守るためのカルテルとして機能してきた側面は否定できないものがあります。

 私はこの会見が始まる直前に「これから始まります」とTwitterで書いたら、それに対するレスポンスがたちまち返ってきました。その中に、「こうやって話しているのは、結局記者クラブの記者会見に参加して、自分の領域を拡大するためなんじゃないのか」という痛烈な意見がありました。

 私は一記者として参加できればいいのであって、その中で利権を作りたいというわけではありませんし、私の仲間たちも同じような考えだと思います。私たちの集まりは権力化や利権化を目的にしているのではないので、オープンな状態で維持していきたいと思いますし、個々人が入れ替わってもそうした集まりが続き、記者クラブと話し合いの場を持ちながら、記者会見を記者クラブが専有して主催するのではなく、市民の代弁者たるジャーナリストみんなで共催するような形にできたらいいなと思っています。

記者クラブ廃止論には反対

『週刊金曜日』編集長の北村肇氏

北村肇(『週刊金曜日』編集長) (記者会見オープン化について)3点、お話ししようと思います。

 1つ目は、「既存メディアの記者がなぜ反対するのか」ということです。僕も30年ほど毎日新聞にいたのでよく分かりますが、要するに「既得権を手放したくない」ということ。独占状態にしておけばさまざまな既得権があるわけで、「それを手放したくない」という非常に単純なことがあると思います。

 また、「ジャーナリズムが何か」ということを考えない記者が数多くいる、というか増えてしまったということもあります。特権の裏には義務があるわけで、「ジャーナリズムの義務をきちんと果たしていれば、これほどまでに記者クラブ批判が起きただろうか」と思います。「ジャーナリズムとは何か」を考えないで記者クラブにいれば、既得権益を守ることしか考えないことになるでしょう。

 2つ目は「じゃあどうしたらいいか」です。(記者会見の)開放は当然です。「ジャーナリズムが何を目指すか」ということで一番大きいのは、権力の監視や批判です。民主主義の自由を守る目的のために働いている人たちの組織が、言論の自由を守らないなんてことはまったくばかげています。(記者会見は)すべてのメディアに開放するということを前提にして、後は「実務的にどうしたらいいか」ということを考えたらいいでしょう。

 ただ、僕は記者クラブ廃止論には反対しています。省庁の中に権力の監視や批判をする場を設けているわけですから、制度をしっかりしたものにすればいいのであって、そのものを廃止することは避けた方がいいと思っています。

 3つ目は「開放させるためにどうしたらいいか」です。企業ジャーナリストやフリーの人たち、あるいは市民記者の人たち、Webメディアの記者たち、さまざまな人がいるわけなので、それらの人すべてが加われる何らかの集まりを作って、1つのパワーを発揮して、既存メディアや省庁に圧力をかけて開放させていくことが必要な時に来ているのではないかなと思います。まあ、組織でやると、またおかしなことになるかもしれませんが。

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