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» 2010年04月20日 08時00分 公開

「行政主導の記者会見開放はメディアの危機」――フリー記者たちがアピール(3/4 ページ)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

自分たちの権益を伸ばすためにやっているわけではない

神保哲生(ビデオニュース・ドットコム代表) ここ(会見場の日本プレスセンタービル)は日本新聞協会が入っている日本記者クラブの施設で、そこで「記者クラブをぶっとばせ」みたいな会見をやるというセンスにまずみなさん反応していただければと思います(笑)。記者会見の開放問題でこれだけの場を作っていただいて、しかもこれだけの人が集まっていただけるという現状に非常に感慨深いものを感じています。

ビデオニュース・ドットコム代表の神保哲生氏

 私はこの問題とは、非常に長い付き合いです。私はAP通信の記者だったのですが、1989年に日本に特派員として派遣されてきた時、例えば、湾岸戦争の時に日本が世界に向けて支援策を発表するという記者会見に出ることができませんでした。AP通信として出られなかったということですね。

 また、AP通信では昭和天皇が崩御された時のニュースを亡くなられた直後に配信しましたが、「NHKによると」というクレジット付きでした。社内では「国営放送や公営放送を通じて、国家元首の死亡が伝えられるのは、おそらく北朝鮮と日本だけだろう」と揶揄(やゆ)されて、僕らが直接情報を取れなかったことを間接的に批判されました。ただ、当時、宮内庁から直接そういう情報をとることは不可能でした。

 それが1989年の出来事ですが、そこからずっと記者クラブ問題に付き合ってきました。それでここにきてようやく民主党政権がイニシアチブをとったことで、こういう大きな動きにつながったということは非常に歓迎しています。まあ本当は「開く」だったのが、なぜか「開く」「開かない」になっているところが問題なのですが。

 記者会見開放についてまず押さえておかないといけないのは、岩上さんがおっしゃられたように「自分たちの権益を伸ばすためにやっているわけではない」ということです。もちろん、そういう面がまったくないとは言いません。

 ただ、いろんな業界にいろんな不公正な商習慣があるわけですが、メディアにおける不公正な商習慣は次元が明らかに1次元違います。なぜなら、メディアで何らかの障壁があった場合、その障壁があったことが知らされることがなく、「何が知らされていないのかを知らされることがない」からです。一般の市民は何が知らされていないのかが分からないのがメディア問題の本質で、だからこそ記者クラブ問題がここまで温存されてしまいました。一般の人は記者クラブ問題の存在を知ることがなかったわけです。それは、記者クラブ問題の当事者が記者クラブ問題を報じていないからで、これはいまだにそういう状態です。

 鳩山首相が初めてオープンの記者会見をしたという事実さえ、ほとんど報じられていません。また、民主党が政権をとる前、マニフェスト発表会見で「記者会見の開放も自分たちの約束です」と言った。主要メディアの報道では、マニフェスト会見の議事録からそこだけ消されているんですね。「どうせならそこだけ黒く塗ってくれたらいいな」と僕は思いました。「黒く塗られている部分がありますよ」ということを世の中が知っていればまだ、「何か怪しいな」と思うのですが、何もなかったように消されているんです。だから、ほかの業界の不公正な慣習とは明らかに違う次元のものがメディア問題にはある、ということを認識していただく必要があると思います。

 それから記者クラブ問題についてもう1点、「記者会見に入れないと取材ができないので、入りたい」と言うと、主催が記者クラブだからという理由で「記者クラブに行ってくれ」と言われます。そこで記者クラブに行くと、「これは任意団体で、会見は自主的に行っているものなので、会見に入りたいなら、自分たちで独自に会見をやってもらったらいいのではないか」と言われるのです。これは逆に言うと、「記者会見ではなくて、懇談だ」と言っているに等しいのですが、「オープンな会見ではなくて、自分たちの私的な集まりに大臣を呼んでいるんだ」という言い方をするわけです。だから、「会見を別途やるならどうぞ、それは妨げません」という言い方をされて、そのままたらいまわしにあうことになります。ちょっと変化球的に言うと、記者クラブ問題は記者会見問題になるのですが、最終的にはまたそれが記者クラブ問題になるのです。

 また、先ほどから出ている主催問題に関わることなのですが、ここで主催というのは「誰が会見に参加する資格があるのか」を決定する権利のことを言っています。普通は主催と言うと、イベントのお金を出しているとか、場所を用意しているという意味なのですが、(役所の記者会見の場合は)場所は省庁の施設だし、お金も役所側が出しているので、そういう意味での主催は役所なんですね。ただ、記者クラブが主催というのは、参加権利を決める権利が記者クラブ側にあるということです。

 今、民主党が政権をとって、民主党は野党時代からすべての会見をオープンにしていたので、「そのままオープンにします」ということで、いろんな理由で一部まだとどこおっているのですが、オープン化の流れができました。ただ、そこで記者クラブの方々によく考えていただきたいのは、「行政がイニシアチブをとって開放する形で本当にいいんですか?」ということなんです。

 今はいい意味で大義名分が民主党側にあって、オープンにするためだと言って、記者会見の主催権に介入しているわけですが、民主党政権がいつまで続くか分かりません。また、今の大臣はいい意味で開放しようとしているかもしれませんが、次の大臣や次の次の大臣は主催権を持っていても、会見を今のようにオープンに、公明正大にやるとは限らないわけですね。自分たちで会見を主催する権利というのは、日本のメディアが長い歴史の中で勝ち取った権利のはずなんです。

 それなのに記者クラブが近視眼的に自分たちの損得みたいなことだけを考えて、記者クラブを開放しない。どんどんメディアが入ってくださいという形にしない。あるいは、「一緒に主催しましょう」とならない。そのため結局権力が介入して、主催権をとってしまっているわけなのです。「今は記者会見に出られるからいいということで、本当にいいのか」ということは、僕は真剣に考えるべきだと思います。

 「行政が主催した方がまだマシだよ」という人が多い理由は、メディアがそれほどまでに信用されていないからです。「メディアに主催させるぐらいなら、行政に主催させたほうがいいよ」と言われるようになってしまっているので、そうなってしまっている。「だけど、それではまずいんじゃないか」というのが私の提案です。

 今、この瞬間だったら行政が主催権を持つ方がマシに見えます。会見をオープンにしようとする政権があって、絶対開放しないという記者クラブがあってという視点で見ると、行政が主催権を持つ方がいいように見えます。でも、「これは将来にわたっても普遍的なものかどうか」ということは、メディアの人間なら当然考えるべきだと思うのです。その意味で、記者クラブの責任は重い。記者クラブが開放しないために、行政に主催権をとられていますよ、ということです。

 私たちは記者会見に出していただけるのはありがたいのですが、行政主催の記者会見に出ることになっているんですね。それは良い大臣ならいいですが、非常に不公正な運営をしたり、都合が悪ければ開かなかったり、自分に都合のいい記者にしか質疑応答で当てない、ということも主催権に関わる問題になってきます。ですので、僕は声を大にして、記者クラブの方々には「100年の計を誤らないように」とお願いしたいと思います。

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