「若者の焼きそば離れ」に対応? エースコックが成功したワケそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年04月27日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2       
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

「若者離れ」を嘆く前に

 コンビニでカップ麺の棚の構成を思い出して欲しい。カップ焼きそばはどこに置かれているだろうか。多くの店で棚の下の方、最下段に置いてある。平たい形状のため、上から見下ろす方が視認性が高いためかもしれないが、腰をかがめて、手を伸ばそうという気持ちは起こしにくい。平たくて大きな容器の形状は食べる時にも、いかにも「焼きそば食べてます!」という風情をかもし出してしまって、女性には手を出しにくい。新規顧客を獲得しにくい状況にあるわけだ。

 試しに食べてみると、どうだろう。

 容量の主流は麺100グラムオーバーだ。最大サイズの「ペヤングソースやきそば超大盛タイプ」に至っては237グラムである。それは、ボリューム感を求める顧客の要望を反映して、長い歴史の中で徐々に大型化していった経緯を反映している。

 炭水化物で胃を満たした時、食後に独特の膨満感にさいなまれることになる者も少なくない。具材はフリーズドライのキャベツ、鳥ひき肉、ごま、香辛料、紅しょうが、青のりなどが一般的だが、この青のりがクセ者で、食後の歯ブラシを欠かすと午後の職場で恥ずかしい思いをすることになる。つまり、慣れない者が食べると、少なからず後悔することが多く、リピートしづらい商品なのだ。

 つまり、従来の商品はカップ焼きそばのユーザー層を固定化する形状であるわけだ。まるか食品の「ペヤング」という商品に代表されるように、カップ焼きそばは本来、「ヤング」がターゲットの商品であったのだ。それが、いつしか若者のニーズに合わなくなって、「若者が離れた」のではなく、「若者が手を出さなくなっていた」のである。

 「JANJANソースやきそば」の意義深いところは、ターゲット層とする若者の「ニーズギャップ」を徹底して解消したことだ。

 前述のPCを操作しながらの食用スタイルを実現したのもその一例。また、従来は容器の形状から、「ランチ焼きそばです!」ということがバレバレな感じだったが、20代女性が「オフィスでも食べやすそう」というコメントをしている。商品容量は膨満感防止のために85グラムに抑え、しっかりとした味付けや具材に黒こしょうのスパイスを加え満足感を高めている。一方、歯に付くと敬遠されがちな青のりはあえて外すという細かな工夫もこらしている。

 ユーザーが固定されていれば、加齢とともにボリュームや味についていけなくなった者が櫛の歯が欠けるようにぽろぽろとこぼれ落ちていく。それは、焼きそばだけではなく、高齢化社会においては多くの商材で同様な問題を引き起こす。それを埋める若者層の取り込みを、「若者のカップ焼きそば離れ」などという短絡思考でとらえ、真のニーズギャップを解決しなければ問題は解決しない。

 従来の常識を打ち破るチャレンジは、「トライアル、リピートともに順調」(前掲oricon記事)と同社がコメントする通りの成功を収めている。同社はすでに第2弾も準備しているという。「消費しない若者」と嘆く前に、何が起きているのか問題をよく見極める。消費者を観察する。ニーズギャップを埋める。世の中の“トレンド”を鵜呑みにしないことのメリットは大きい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


関連キーワード

マーケティング


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.