約9割のビジネス書は、ゴーストライターが書いている吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2010年05月21日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

その本は詐欺みたい

 ライターが何度も聞き返していると、虚栄心の強い著者(ゴーストライターを立ててまで本を出す人は虚栄心が強い傾向がある)が怒ることがある。ベンチャーや中小企業の経営者は、他人から何かを言われることに慣れていない。人から仕切られることに抵抗を感じるから、会社を飛び出して創業をしたようなタイプが多い。ライターは、この虚栄心と自己顕示欲の塊とも言える著者を刺激しないようにいかにうまく聞き出すかが、腕の見せどころとなる。

 数年前、私はライターを志す20代の人たちにこのような裏話をしたら、こんなことを尋ねられた。

 「そこまでひどいと、その本は詐欺みたい。ライターが書いている以上、その人の名前で本を出すべきで、その著者は情報提供者ではないですか? せめて、本の裏に『ライター 〇〇〇〇 情報提供 〇〇〇〇』としないと、詐欺になる……」

 私は答えようがなかった。主要出版社S(前述のSとは違う会社)の役員にこの話をすると、「そのとおり!」と苦笑いをしていた。私はさすがに「詐欺」とは認めたくないが、問題の多い仕事ではあると実感する。

出版社の裏事情

 こういうブーイングがありながら、なぜ出版社はゴーストライターを使い、ビジネス書を出し続けるのか。それは、端的に言えば金もうけをしたいからである。つまりは「ビジネスなのだから、キレイ事など言っていられない」ということだ。

 確かに本を書いた経験のない人を著者にして書かせたところで、200ページにも及ぶその原稿がいつ仕上がるのか、分からない。これでは、いつどのような本を出すのかといったその出版社の「出版計画」が破たんする。そこで、締め切りを守れるライターが抜てきされる。

 仮にベンチャーや中小企業の経営者、コンサルタントなどの著者が締め切りを守っても編集者は安心しない。彼らが書く文章は、ライターが書くところの「商業用日本語」とは程遠いからだ。商業用日本語とは、私が20代のころ、上司から教わったものである。新聞や雑誌、ビジネス書などの文章は1回読むと、その意味がおおむねすんなりと分かるように書かれている。それこそ、商業用日本語なのである。

 これに対して、大学教授やコンサルタント、研究員らが書く文章は何度も読まないと、その意味が分からないことが多い。それでは読者がお金を払って買う文章、つまり商業用日本語とは言わない。例えば、ある著名なコンサルタントのブログには、このように書かれてあった。これは本人が書いたものだと思うので、紹介しよう。ただし著作権に抵触するので、私のほうで多少、加工したことをご理解いただきたい。

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