インタビュー
» 2010年06月18日 08時00分 UPDATE

35.8歳の時間・石田雄太:なぜイチローは、この男に語り続けてきたのか (5/6)

[土肥義則,Business Media 誠]
yd_book3.jpg イチロー、聖地へ』(文春文庫)

 すると、1年目のシーズンが終了したその日、イチロー選手の方から「インタヴュー、いつやろうか?」と切り出されました。とても驚きましたが、同時に、胸がドキドキと高鳴ったことを今でも覚えています。彼は、ボクが1年間、話を聞こうとせずにただフィールドの姿を見続けようとしていたことを分かってくれていました。

 その成果をまとめたものが、2002年に出版した『イチロー、聖地へ』(文春文庫)という本です。これは、イチロー選手の1年目を総括したのではなく、“ボクが見た1年目のイチロー選手”というところにこだわって描いた作品です。あくまでも、自分が実際に見たこと、聞いたこと、感じたことを綴りたかったのです。

インタヴュー前の心の準備

 イチロー選手に取材をする前の夜は、気持ちが高ぶります。1時間のインタヴューであれば、準備のために、まず6つの小見出しを掲げてノートに書き込みます。そして小見出しごとに5つずつの質問を考えます。インタヴューがどのように流れていくのかをイメージしておいて、実際にイチロー選手を前にしたら、ノートは閉じます。あとは彼の言葉に、自分がどのように反応できるのかということだけに意識を置いています。聞きたいことを聞いて、納得できたら、次のことを聞く。質問項目を順番に聞いていくというのではなく、彼のどの言葉に自分が引っ張られるのか、引っ張られたら彼の答が腹に落ちるまで突き詰める、ということに気を遣っています。

yd_ishida4.jpg シアトルのセーフコフィールドで(36歳のとき)

 イチロー選手は、質問を最後までしっかりと聞き取ろうとします。今、何を聞かれているのかということを自分なりに把握してから答を探すので、質問の語尾が曖昧(あいまい)になると、聞きたいことからずれた答になってしまうことがあります。だから、質問は語尾までを曖昧にすることなく、正面からぶつけなければなりません。また、彼はたくさんの取材を受けているので、メディアが何を言わせたいのか手にとるように分かっています。なので予定調和のやりとりは成立しませんし、質問のための質問というのは見抜かれてしまいます。その分、聞き手は、本当に自分が聞きたいことは何なのか、ということを事前に反すうしておかなければならないと思います。

 あるとき、ちょっとした行き違いから、お互いがインタヴューの日にちを勘違いしていたことがありました。ボクは今日だと思っていたら、イチロー選手は明日だと思っていた。どうしようかと相談したら、彼から「今日は心の準備ができていないので、無理です」という答えが返ってきました。この言葉を聞いたときは、ちょっぴり嬉しかったです。イチロー選手が、インタヴューを前に心の準備をしてくれているんだ……と(笑)。

 取材を始めてから16年が経ちましたが、ボクはイチロー選手に対する興味を失っていません。なぜなら彼は、そそられるだけのパフォーマンスを発揮し続けているからです。グラウンドにいる姿を見ていると、いまでも聞きたいことが溢れてきます。自分のプレーを言葉にできるということは、そこに何らかの意図があるから。逆に言うと、意図のない選手は言葉が尽きてくるのかもしれません。イチロー選手は常に意図を持ってプレーしているのが分かるので、話を聞きたくなります。そして聞けば、驚かされる。その繰り返しです。

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