事業仕分けに見る、「変える」を徹底する難しさ(1/2 ページ)

» 2010年06月23日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 事業仕分けの熱狂の後、あなたは我に返り、こう尋ねます。

 「それで予算は結局いくら削減されたの?」

 ちなみに、2009年の事業仕分けの成果は約7000億円と言われていますが、真偽のほどは分かりません。なぜなら、事業仕分けの判定の結果は強制ではないからです。そのため、2009年は3兆円の削減を目指していて、「7000億円では少ない」と言われていましたが、最終的な予算の削減額はもっと少なくなっているかもしれないですし、あるいはゼロ、もしくは逆に増えているかもしれません。これは、この4〜5月に行われた事業仕分けでも、現在行われている行政事業レビューでも共通の課題です。

 こうした事業仕分けや行政事業レビューの最大の課題は、事業の“廃止”“見直し”“予算縮減”など、どれだけ厳しい判定を行おうと、その判定結果の見直しは、これまでそうした事業を担っていた実務方に任せきりになっていることです。

 「ムダを省く」ということは、今までやっていたムダな作業や事業を止める、作業や事業のやり方を変える、作業や事業をよりふさわしい主体に任せる、事業主体の選定に競争を導入するなど、いずれもこれまでの行動を何らかの形で変えることです。行動が変わらなければ、ムダはなくならず、コストや経費は変わりません。どんなに仕分け人が的確で鋭い指摘をしようが、それを受けた結果として組織としての行動が変わらなければ何も変わりません。

指示を出しただけで行動は変わらない

 しかし、これまで実務を担っていた人間に、指示を出しただけで、本当に行動は変わるのでしょうか?

 担当者もバカではありません。事業仕分けの場合、官僚や役人たちはむしろ非常に優秀な人間であり、その問題の専門家でもあります。仕分け人がちょっと資料を見て指摘できるようなムダは、言われなくても分かっていることばかりでしょう。それでは、なぜそうしたムダがなくならないか?

 それはある意味、確信犯的に行われているからです。予算やコスト、経費に厳しいと言われている民間企業であっても、「取引先や提供しているモノ・サービスの質を変えると、現場や利用者から文句が来る」「これまで何度も顔を合わせていた取引先を切らなければいけない」「この作業や事業をやめれば、自分の仕事がなくなってしまう」「個人的に取引先によくしてもらっている」といった内に秘めた理由で、表立った抵抗はしませんが、行動を変えることに対して意識的、無意識的なサボタージュがなされています。

 予算を確保してしまえば、コストや経費を削減することに、個々人はモチベーション、インセンティブがありません。オーナー経営者を除いて、組織の金は他人の金であり、1円を稼ぐことの難しさ、大変さを知っているのは、何度もお客さんに断られる営業を経験している人間くらい。組織の中は、ムダが心地良い人々でいっぱいです。これまでの行動を変えようとすると、これらの人間がすべて抵抗勢力に回るのです。地から自動的にお金を吸い上げられる、足りなくなれば簡単に借金ができる仕組みの行政では、こうした傾向はなおさら強まります。

 そうした組織の力学を理解せずに、「仕分け結果を何が何でも守るべきだということではない。国民のさまざまな声は、次期予算編成に当然反映されるべきだ」(出所:6月15日 時事通信。探査機「はやぶさ」の帰還を受けた蓮舫行政刷担当相の発言。昨年11月の事業仕分けでは、後継機開発など衛星関連予算を削減と判定していますが、「はやぶさ」の成功でこの仕分け結果の見直しを許容したものと思われます)などという甘い態度を見せれば、一気に抵抗勢力につけ込まれます。

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