ダラダラ全文記事なんていらない――Webメディアの死角相場英雄の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年06月24日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『誤認 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 記者クラブ開放や官房機密費問題を通じ、大手新聞や大手テレビ局など既存メディアへの批判が高まっている。こうした環境下、徐々に開放され始めた永田町や霞が関の各種定例記者会見に、フリージャーナリストや新興のWebメディアが参入を始め、若い読者を中心に支持を集めているようだ。動画中継機能など最新のネット技術を盛り込んだ会見の様子をすべて知ることができるのは、画期的なことに違いない。ただ、会見のすべてをダラダラとテキスト化しただけ、あるいは延々と会見を中継する手法には疑問を感じる。新興のWebメディアの先行きを、筆者の主観で分析してみる。

拷問だった国会テレビ

 「今日から1週間、国会テレビ担当頼むぞ」――。

 筆者が日銀金融記者クラブで外為市場番を務めていた十数年前、上司であるキャップからこう命令されることがなによりも苦痛だった。

 国会テレビとは、国会の主要委員会をモニターする専門放送のこと。現在でこそインターネットでリアルタイム配信されているが、当時は各社の政治部記者が詰める国会記者会館、あるいは大蔵省(現・財務省)の記者クラブ「財政研究会」など限られた場所のみで視聴が可能だったのだ。

 当時は日本やアジア諸国に対する金融不安が台頭、外為市場が乱高下を繰り返していた時期。衆院予算委員会などに大蔵大臣はもとより、財務官や日銀総裁、日銀の担当理事らが頻繁に出席したので、彼ら“通貨マフィア”たちの動向や発言の詳細を追うため、筆者のような駆け出し記者が動員されたのだ。

 筆者は通信社の外為番記者として、新聞・テレビ向けの記事を書く一方、専用モニターでニュースを入手している為替ディーラー、ブローカー向けに速報を提供していた。このため、国会記者会館や財研に詰め、委員会の詳細をフォローしたのだ。

 委員会の総括記事は政治部のベテラン記者が執筆するが、「円相場の先行きを楽観していない」「ドルの基調は強い」など、外為ディーラーが敏感に反応する通貨マフィアの発言は駆け出し記者がカバーする領分。事前に与野党の質問者の大まかな質問要旨を入手していたとしても、それに対する答えまでは把握していないため、ひたすら国会テレビのモニターに耳を傾けていなければならなかったのだ。

 国会の予算委員会を初めから終了までずっとモニターしたことのある読者はそう多くないはずだ。世間の耳目を集める懸案があり、議論が白熱して見せ場が到来するような機会はごくまれ。「寝ている議員が多すぎる」の言葉通り、カバーしている記者も必死に眠気を堪えているくらいだから、仕事が絡んでいない一般視聴者が面白いはずはないのだ。また、国会独特の言い回し、符丁の類いも頻繁に出てくるため、すべてを一般視聴者、読者が理解できるとも思えない。

 国会テレビだけでなく、担当を任されていた外為市場に関連するような他省庁の会見にも顔を出したが、その多くはボツ。つまり、ニュース価値がない会見も少なくなかった。ただ、担当記者とキャップ、そしてデスクが責任を持ってボツにするのだから、中身のない会見が世間に伝えられることはないのだ。

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