カスタマイズの罠ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年07月05日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

隣の家に爆弾が落ちても、画面は韓国ドラマのニュース

 パーソナライズのデメリットをより強く感じるのはニュースサイトです。私が一番よく見るのはGoogleニュースのトップページです。全ジャンルのニュース目次を簡潔に少ない広告量で見せてくれ、読みたいニュースが探しやすいすばらしいサイトだと思います。

Googleニュース

 このGoogleニュースにもカスタマイズ機能が付いてます。例えば、スポーツニュースは表示させないとか、政治ニュースをより充実させるなど調整できるようです。また、1つのニュースを選ぶと画面下部には関連ニュースがリストされますが、今後はそれらの中からどれをクリックしたかという情報を収集・分析し、「その人へのお勧めニュースを重点的に表示すること」も可能になるでしょう。

 これを積み重ねていけば、ニュースサイトはどんどん「ちきりん好み」にファインチューニングされ、やがてはそのページを開くと、知りたいニュースだけが漏れなく表示されるようになっていき……同時に「そういう人向けの広告」が表示されるようになるのでしょう。

 しかし、この機能が怖いのは、せっかくニュースを読んでいるのにも関わらず、視野が狭くなる恐れがあることです。ファインチューニングされたニュースサイトを見ていると、自分が過去に関心を持った分野についてはどんどん詳しくなりますが、それ以外のことについて知りうる機会が“積極的に排除”されますよね。

 紙の新聞のように一覧性・網羅性があるメディアだと、「自分は関心がないのに、こんなに大きな扱いをされる記事」というのが存在していて、「へえ、世の中は今これに関心があるのね」と気が付くことができます。

 ずいぶん昔の話ですが、「毛沢東死去」というニュースが新聞1面の半分くらいを占める巨大な見出し文字で報道されているのを見て、当時子どもだったちきりんは驚き、「毛沢東って誰だか知らないけど、すごい人に違いない」と感じました。それによって関心を持ち、「中国の近代史を学びたい」と思ったわけです。

 自分向けにカスタマイズされたニュースサイトだけを見ていたら、そういう学びの機会は得られません。当時、もしそういう機能があれば、自分用のニュースサイトにはテレビや漫画の話、女の子向けファッション情報ばかりが載っていて、毛沢東死去については小さく表示されるだけだったかもしれません。

 ユーザー側にカスタマイズの権限があればまだマシですが、閲覧履歴情報などを元に勝手にカスタマイズされ、そのことにユーザーが気が付かないのは怖いです。そうなると「自分の目の前に提示されている世界はゆがんだものだ」という意識がなくなるわけですから。

 例えば、「北東アジアで戦争が起こって隣の家に爆弾が落ちたのに、ちきりんのPCで見るニュースサイトの画面には韓国ドラマ情報しか流れていない。なぜなら『この人は国際情勢や政治には関心がない』と判断されていたから」、なんて状況は本当にホラーです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.