あなたは何を売っていますか? キタムラのフォトブック事業に学ぶそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年07月07日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2       

あなたは何を売っていますか?

 「顧客はドリルが欲しいのではない。穴を空けたいのだ」。ハーバード大学ビジネススクールの教授セオドア・レビットの有名な言葉だが、実は正確には次のような言葉である。「昨年度、4分の1インチのドリルが100万個売れた。これは、人が4分の1インチのドリルを欲したからでなくて、4分の1インチの穴を欲したからである」と、レオ・マックギブナという人物の言葉をレビット教授が引用した一節である(『レビットのマーケティング思考法』ダイヤモンド社)。

 上記の言葉は「ニーズ」と「ウォンツ」の関係をもっとも端的に説明した言葉である。顧客は何か実現したい理想の状態を求めている。それが「ニーズ」だ。そして、実現できていない現状を解決する「対象物」として求められるのが「ウォンツ」である。

 人はなぜ、写真を撮るのか。多くの場合、「想い出や記録を残したい」からだ。それが、ニーズである。その「想い出」や「記録」を留めるための媒体が、従来は写真を焼き付ける感光紙である印画紙であり、それを形にするのがプリントサービスであったわけだ。つまり、誰しも印画紙が欲しかったり、プリントサービスを受けたかったりしたわけではない。

 2009年1月12日付日経ビジネスの記事では、「記録」するだけのデジカメ写真から、「記憶」に残るデジカメ写真へとキタムラのフォトブック戦略の核心が語られ、「今、写真専門店の存在意義は、写真をデータで見たり自宅でプリントするよりも、もっと便利なこと、簡単なこと、楽しい事をどれだけ提供できるかにかかっている」と、武川泉社長(記事掲載当時)がコメントしている。

 社内の入れ込みようはすさまじく、研修や教育制度を整えた。「フォトブックのセールストークに自信が持てるように」と、アルバイトを含む全従業員にフォトブックを作らせ、プロの写真家が出来栄えを評価する社内フォトブックコンテストまで開いている。

 キタムラの戦略は明確だ。顧客の「想い出や記録に残す」というニーズは、プリントしなくともPCやカメラ・携帯の液晶画面で閲覧するという形で実現できる。つまり、従来の印画紙が提供していた、「閲覧する」という価値を液晶画面が代替したのである。

 しかし、見るには見られるが、液晶画面で1枚1枚見るのは味気ない。画像管理ソフトを使っても、手に取ってみることはできない。そうした、新たなニーズに対応するのがフォトブックなのだ。フォトブックというより心地よい「形」で「閲覧する」ことを実現したのである。さらに、それをどのような形で手にしたいのかという要望に応えるため、さまざまなバリエーションを展開しているのだ。そして、その撮影した画像自体をプロの手で加工・編集するという付加価値をさらに高めたのが今回の「ブライダル専用フォトブック」なのである。

 「自らが売っているものは何なのか?」

 明らかな衰退期の業界で果敢な挑戦を続けるキタムラの展開は、自らの「売り物」が何なのかを明確に見すえたところから始まっている。

 業界構造が、ある日突然変化することはどの業界でもありうる。コントロールすることはできない。自社でできることは、顧客のニーズに再度目を向けて、それをどのように別の形でよりよく実現できるかを愚直に考え、実行することだ。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


関連キーワード

マーケティング


前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.