このカメラを入手したのがいつだったのか、あまり正確には覚えていない。おそらくこの記事を書いたあとの暑い日だったので、2006年の夏ごろだったのだろう。
筆者がいつもジャンクカメラを買うのは、大抵新宿の「新宿中古カメラ市場」か、「中古カメラBOX」なのだが、たまに中野の「フジヤカメラ」に足を伸ばすことがある。そのときはたまたま時間が空いたので、フジヤカメラ ジャンク館をひやかしてみたのである。
すでに、めぼしいものはあらかたなくなってしまった状態だったが、何故かそのNikomat FTnだけは、まるで手つかずで残っていた。見た目もそれほど汚くない。動作も一応するようだ。何故このレベルのカメラがジャンクコーナーに置かれているのか、不思議な感じがした。
当時は一眼レフのマウントのことなど何も知らなかったが、そのへんに転がっていたNikonのレンズを付けてみたところ、綺麗にはまった。これはいいということで、さっそくその2つを購入した。おそらく両方で7000円ぐらいのことだったろう。
Nikonのマウントは過去からずっと基本が変わっていないので、どんなレンズでもとりあえず付くということを知ったのは、買ったあとである。だから、その辺にあったレンズでも付いたわけだが、もしもこのときレンズが付かなかったら、いまのようにいろんな古いカメラを収集し始めることもなかっただろう。
そう考えるとこのカメラもまた、この連載の源流を作った1つである。
Nikomat FTnは、1967年から8年間に渡り、製造されたNikonの中級機である。高級機はもちろんいうまでもなく、Nikon Fシリーズだが、そこから1ランク下がったポジションがNikomatシリーズとなる。
ただ、中級機だからといって手を抜いたところは全くない。シャッター構造で多少のコストダウンを図ったとのことだが、いやもうずっしりとした情け容赦ない重さ、信頼性の高いメカ設計など、Nikonの魂はしっかり受け継がれている。その重さたるや、なかなか信じて貰えないとは思うが、50ミリ/F1.4のレンズを付けて、1キロを越える。撮るのも大変である。
Nikonはマウント形状は変わらなかったが、それはさまざまな創意工夫で時代の波を乗り越えてきたからである。初期のNikon Fは露出計を内蔵していないが、時代が進むにつれてTTL測光、つまりレンズを通った明るさを測定して露出を図る方法が主流になっていく。
昔のTTLは、レンズを通った光をプリズムを経由してビューファインダーに送り、そのビューファインダーの近くに露出計を付けて、そこで測光するというものであった。以前、ASAHI PENTAX SP/SPFでも紹介したように、初期のTTLは「絞り込み測光」である。
これは、例えば絞りをF5.6で撮ろうと思った場合に、実際にレンズの絞りをF5.6まで動かして光を減らした状態で、露出を測定する。まあ、やり方としてはしごく当たり前なのだが、F16ぐらいまで絞ると、絵が真っ暗でほとんど被写体が見えなくなってしまう。これでは使いづらい。
そこで「開放測光」という方法が考え出された。これはレンズの絞りを実際に絞らず、開放状態で露出を測定する。そこから実際に絞りをいくつ絞って撮るかは、1段絞るごとに光の量が半分になるだけなので、それは露出計のほうで計算しましょう、という方式である。この方式では、実際の絞りは撮影する瞬間だけ、設定値までスパッと動くことになる。
これは撮影する側にとっては非常に便利な方法なのだが、困るのはカメラボディのほうが、いまどんなレンズが付いていて、どんな状態になっているのか分からない、ということである。つまり、レンズさん自身は自分の開放F値がいくつで、撮影時にはそこから何段階絞るつもりなんだよ、というのが分かっているが、ボディさんはそんなことは知らない。電子接点などなく、お互いの情報をやりとりするなど想定もしていない時代である。
そこで知恵を絞ったのが、1967年に発売されたこのNikomat FTnと、Nikon Photomic FTnから初めて採用された「ガチャガチャ」方式である。詳しくは、次号でお話ししよう。
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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