釧路川をカヌーで下り、生態系のことを考える松田雅央の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年07月14日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

著者プロフィール:松田雅央(まつだまさひろ)

ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ


 今、欧州において湿地保護への関心が高まっている。

 例えば、地球規模の気候変動とそれに伴う大雨により、欧州の河川では洪水が頻発しているが、その解決策として期待されるのが河川沿いにある湿地帯の復活だ。また湿地帯は多様な生物の宝庫であり絶滅危惧種に指定されている動植物も多い。欧州の大気汚染や水質汚染といった典型的な環境問題は一通り決着したため、今まで環境の中心課題となりにくかった湿地がクローズアップされているという背景もある。

 日本にも守られるべき湿地帯は多い。特に北海道東部の釧路湿原は1万8290ヘクタールという広大さ(日本最大)を持ち、タンチョウをはじめとする鳥類の繁殖休息地、日本最大の淡水魚であるイトウやキタサンショウウオなどの希少動物も多く、その重要性からラムサール条約登録地に指定されている。

細岡展望台から釧路湿原と釧路川を臨む

釧路湿原の象徴

 手漕ぎのカヌーは水面を滑るように進む。聞こえるのは釧路川の水流が作る小さな渦巻きの音と野鳥の声だけ。地元でカヌーガイドを営む鈴木松雄さん(Marsch&River)の案内で、大湿原を流れる釧路川をカヌーで下った。

 春はちょうど営巣時期の野鳥が多く、釧路湿原の象徴的存在であるタンチョウも草むらの中で子育て真っ最中だ。鈴木さんは100メートルほど先を指差して、こう言った。

 「あそこに2羽見えますね。2羽が近い距離にいますから、幼鳥はその間にいるはずです」。3月半ばになるとタンチョウのつがいは巣作りをはじめ、長さ10センチの卵を1〜2個産卵する。卵は親が交代で抱き続け、約1カ月でヒナが生まれ、約100日で親と同じくらいの大きさになり飛べるようになる。

 戦後、絶滅の危機に瀕したタンチョウを保護増殖するため保護センターが整備され、1952年(昭和27年)には国の特別天然記念物に指定されている。以来、毎年12月に生息数の一斉調査が行なわれ、平成19年の調査では1200羽を超えるまでに回復した。

 明治時代・昭和初期の野生動物減少は人の手による開発が原因で、広大な湿原を干拓し農地として利用することが目指されていた。釧路川を下っていると、ところどころに湿地から延びる小川を見つけるが、そのいくつかは水を逃がすために作られた人口水路の跡だ。周辺地域では今も牧畜が盛んだが、湿地帯の中心部分は人の進入を許さなかった。人為を寄せ付けない自然の厳しさがあったからこそ、今も釧路湿原は日本最大の湿原としてその姿を保っている。

釧路川をカナディアンカヌーで下る(左)、オジロワシ(天然記念物)の飛翔。近くに営巣地があるはずだ(右)

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