コラム
» 2010年07月17日 00時00分 公開

紀州南高梅のニューカマーがV字業績回復できた理由――勝喜梅・鈴木崇文さん(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(4/4 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]
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販売チャネル革新――きっかけは有馬温泉「有馬グランドホテル」

 次は「販売チャネル」の革新だ。そのためには、紀州南高梅の特性に関し、自社としての訴求ポイントを明確にする必要があった。

 「それは『梅干は本来、疲労回復を始め、健康増進につながる食べ物だ』ということです」と鈴木さんの答えは明確そのものだ。

 「世の中の嗜好(しこう)の変化に対応してのことでしょうが、市場に出回っている梅干には、甘味だけの商品が非常に多いですよね。でも、甘いだけの梅干には、健康増進効果はまったくありません。梅干が梅干であるためには、クエン酸が必要なんですよ。たとえハチミツ仕立ての梅干であっても、それは同じなのです」

 私も勝喜梅の梅干を、ハチミツ仕立てのものを含め、試食させていただいたが、梅干が食生活に大きな位置を占めていた「古き佳き時代」の、良い意味での酸味や塩味がしっかりと残っている。そして、そこにほのかな甘味が加わっていて、しかも、その3者(酸味・塩味・甘味)が完全に調和・融合し、どれか1つだけが突出するということがまったくない。ハチミツ仕立ての梅干ですら、甘味が突出することはなく、まろやかにブレンドしているのである。

 さて、こうした特性をもった勝喜梅の南高梅を、どういうチャネルに売り込んだのだろうか?

 「従来のギフト市場からはかけ離れていますし、ほかのどこもやっていないことだったのですが、有馬温泉の有馬グランドホテルの女将さんに、宿泊客の到着時に部屋で出すお茶菓子の1つとして、弊社の梅干を出してもらったんですよ。

 温泉地だと普通は温泉まんじゅうが置いてあるでしょ? でも、宿に到着された直後というのは、みなさん、遠路はるばるいらっしゃってお疲れなわけです。ですから、『梅干には疲労回復効果がある』ということで置いてもらいました。

 すると、お客さまがたいへん驚かれて、そして喜んでくださったんです。特に年配のお客様には大いに喜ばれました」

 確かに汗をかいた後は塩分が恋しくなるし、酸味(クエン酸)での疲労回復もありがたいことだ。

 「当初、1年間の約束だったのですが、ご好評いただいたこともあって、結局、4年近く続きました。1カ月に2万粒ご用意するということで、当時のメンバー13人で、毎日、それこそ必死の思いで手作業に励みましたよ(笑)」

有馬グランドホテル公式Webサイト

 温泉宿の客室で出すお茶菓子は、お土産コーナーでもよく売れるはずだが、その点についてはどうだったのだろうか?

 「比較的富裕層に属するお客さまが多いということもあったでしょうが、おかげさまで非常によく売れました」

 まさに意表を突くような発想に基づく販売チャネル開拓だったが、この有馬グランド・ホテルでの成功は各方面に伝わり、勝喜梅は息を吹き返した。引き合いも増えた。

 また、この成功は同社のその後の「成功パターン」がどのようなものであるか、その原型を示してくれていたと言える。すなわち、それまでの常識を破る、一見、奇策にも見えがちな発想でありながら、実は極めて理にかなっていて、言われてみれば「なるほど、それはありだな!」と思わせる販売チャネル開拓なのだ。これを通じて、同社は次々と成功を勝ちえていくのである。

 次週掲載予定の後編では、その驚きの販売チャネル革新の数々を明らかにしたい。また、こうした成功を可能にした社内的な要因を探ってみたいと思う。そして、さらには、同社と紀州南高梅をめぐる課題や将来展望についてもお聞きしたい。

 →後編に続く

嶋田淑之(しまだ ひでゆき)

1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」「43の図表でわかる戦略経営」「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。


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