紀州南高梅のニューカマーがV字業績回復できた理由――勝喜梅・鈴木崇文さん(前編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/4 ページ)

» 2010年07月17日 00時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

 「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で、あるいは個人で奮闘して目標に向かって邁進する人がいる。

 本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現する人物をクローズアップしてインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。また個人の働きが、組織のなかでどう生かされたのかについて、徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 統計データはいざ知らず、企業経営の現場では相変わらず、不況の風が吹き荒れている。「高くては売れない」といわれて低価格な製品やサービスを展開しても思うようには売れず、安値で成功している企業は今やメディアの寵児だ。

 しかしその一方、高価格のブランドでありながら、適切な企業努力によって右肩上がりの成長を遂げている企業も存在する。今回は、高級ブランド梅干しとして知られる紀州南高梅(なんこううめ、なんこうばい)の中でも、「特A」クラス品のみを扱い成長を続ける梅干製造・販売会社「勝喜梅」(しょうきばい)の鈴木崇文常務(39歳)にインタビューさせていただいた。

勝喜梅の鈴木崇文常務

 ふっくらと大きな粒、薄い皮、小さな種……紀州南高梅ならではの、その魅力の虜(とりこ)になっている人は日本全国に数知れない。

 勝喜梅は、バブル崩壊以降の長い不況の中で一時は迷走して経営が傾いたが、鈴木さんの陣頭指揮の下、ブランドを再構築、そして販売チャネルを革新したことでV字回復に成功した。2010年で創業から22年。年商6億4600万円(2010年1月末)、従業員51人の企業として、南高梅の業界では確固たる地位を確立しているという。

 そこでまず、前編では意外と知られていない紀州南高梅そのものについてご紹介したい。そして、勝喜梅は、どのような思いの中で創業に至ったのか。最初の成功とその後の迷走の経緯はどのようなものだったのか。さらには、経営革新は、鈴木さんのリーダーシップの下、どのような社内状況の中で、いかにして推進されたのか、そのプロセスをご紹介したいと思う。

 そして、次週公開予定の後編では、最初にその後の同社の快進撃について触れたい。一見奇策に見えがちであるが、しかし実は理に適った販売チャネル開拓を通じて、成功を勝ち得てゆく同社。それを可能にした社内的な要因を探る。そして、同社は今、どこに向かおうとしているのか、課題は何なのか、「紀州南高梅」ブランドの未来像とともに、検討したいと思う。

勝喜梅公式Webサイト

知ってそうで実は知らない「紀州南高梅」

 和歌山県といえば、近年は世界遺産の熊野古道で観光人気が高いが、その一方では有田みかん、クエ(スズキ目ハタ科)、和歌山ラーメンなど、グルメの分野においても全国的なブランド力を有している。さしずめ、紀州南高梅はその代表格であろう。

 もともと米作りに適さない同県では、江戸時代(紀州藩のころ、17世紀中葉)から梅作りが奨励され、「紀州梅」は幕府への献上品になっていたという。その後1904〜1905年の日露戦争を通じ、軍隊での梅干需要が拡大したのに伴って同県の梅栽培は大きく拡大。それと時を同じくして、高田貞楠(さだぐす)が自身の梅畑の中にひときわ大粒で美しい紅のかかる優良木を発見した。貞楠はこれを母樹として大切に育て、それを小山貞一が継承する。

 1950年、和歌山県では、梅の優良品種を統一して市場の安定を図るために「梅優良母樹調査選定委員会」が設立される。5年間に及ぶ調査研究の末に、最も風土に適した最優良品種として、この「高田梅」が選ばれた。そして、この梅は、南部(みなべ)高校園芸科の生徒たちが協力した調査だったことと、高田貞楠の名前から「南高梅」と命名されたのである。

 2006年10月には、地域団体商標制度(地域ブランド)の第1号として、大分県の「関サバ」「関アジ」、同じ和歌山県の「有田みかん」などとともに「南高梅」が認定された。国内産の梅の6割が和歌山県産であるが、その中でも田辺市とみなべ町で生産される「南高梅」は、トップ・ブランドとして全国市場で確固たる地位を占めている。

 今回の主役である鈴木さんの属する勝喜梅は、創業が1988年5月というから、南高梅の製造・販売会社としてはかなり後発である。

 「そうなんですよ。もともとはアクロナイネン(旧・和歌山内燃機)という自動車部品などを製造する企業のトップ(勝本喜一氏)が社内に食品事業部を作り、その販社として勝喜梅が設立されたのが最初です(のちに食品事業部は勝喜梅と統合)」

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