インタビュー
» 2010年07月26日 08時00分 公開

業界が“先祖返り”している――『ハルヒ』『らき☆すた』の山本寛氏が語るアニメビジネスの現在 (2/4)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

アニメ制作は二極化する

――アニメで食えなくなっている背景にはどんな事情があるのでしょうか?

山本 もうDVDソフトやBlu-rayソフトを売るスキームでは食えなくなっているので、そこにはお金が集まらなくなっています。どんどん予算が削られて、規模縮小で作らされています。次にビデオメーカーがスポンサーとなったテレビアニメを手がけるのですが、やはり予算がべらぼうに安いんです。みんな「食えない、食えない」と言っていて、でも「これ以上の予算は出ない」と言われて、「不景気だからどうしようもないなあ」となっています。そもそもテレビ局が食えない時代になっているので、テレビアニメが食えるわけないんですよ。

 「食えない」というのは、会社が倒産するかしないかくらいのレベルです。例えば、下請けの会社だと、仕事を必死に探さないと開店休業状態ということです。

 それにはアニメの本数が減っていることが影響しています。これは本当にバブルが弾けたんだと思うのですが、アニメの本数が増えた時期に、スタッフも増やしたんですね。その時は、制作現場が売り手市場となりました。「今なら演出家はどこに行っても食えるからチャンスだよ」と先輩の監督や演出家によく言われました。「もうすぐこのバブルは弾けるから、今のうちに何本でも仕事を入れて、稼いでおけよ」と言われて、「この時代もそんなに長くないんだろうな」と思っていたら、あっという間に弾けましたね。2007年くらいの話です。

テレビアニメ作品タイトル数・制作分数の推移(クリックで全体を表示、出典:日本動画協会)

 それで、その時に囲いこんだ人材があぶれちゃったんです。昔はアニメーターが制作会社に営業の電話をかけるなんてありえなかったんです。とにかく猫の手も欲しいという状態なので、上手い下手はともかくとしてアニメーターとして作品にクレジットされていれば、ひっきりなしにあちらこちらから電話が来ていたんです。演出家なら言わずもがなです。でも、今は「何か仕事ないですか? 余っていませんか?」と営業の電話をかけないといけません。そうして営業して細々です。まだ、餓死したとかは聞いたことはないですが(苦笑)。

 先祖返りした話にまた戻りますが、アニメがそれこそ伝統芸能・芸術になって、一部の大金持ちや貴族がパトロンとなって、その庇護のもとに一握りのアニメのクリエイターが作品を作り続けていく時代にひょっとするとなるのではないかと思います。

 実は素人の趣味レベルで、もうアニメは作れてしまうんですよね。すでにアマチュアとプロとのボーダーレス化は甚だしくて、ニコニコ動画を見れば、プロ顔負けの作品はガンガン出ているわけです。今はそういう周縁のアニメ好きの中で絵の上手い人が、業界に片足だけかけている状態なんです。そういう人はいっぱいいます。たしなむ程度にアニメの仕事をして、あとはイラストや同人誌などの展開をするという、俗に言う“Webアニメーター”ですね。専業でこの仕事をやるのではなく、いろいろ活動する中の1つととらえている人が増えていて、今後も増えていくでしょうね。

 これが度が過ぎていくと、二極化するんじゃないかなと思っています。業界がアニメ保存会みたいなところで保護されて、ビジネスとしてかろうじて成立しているという一方、趣味の一環としてアマチュア作家が好きに作品を作ってWebにアップする、という同人誌レベルの活動で満足するという時代が来るのではないのでしょうか。

 それだけ、もうものづくりとしては成立していないですね。いや、それでも続くのかもしれないですけどね。「ものづくりとして成立していない」というのは僕が新しく言い出したわけではなくて、30年前から言われていますから。「アニメはビジネスとして成立していない。もう終わりだ」と言われ続けて30年ですから、今後も続くのかなとも思うのですが、僕の感覚からすると本当に最後なのではないのかと。今は最後の輝きを見せていると言っていいですね。

 僕も生まれてからずっとアニメを見続けてきた1人のアニメオタクなのですが、これだけアニメの絵のクオリティのアベレージが上がっている時代というのはなかったですね。そこには技術革新であるとか、デジタル化であるとか、ネットワークの広がりでこれまで地理的に無理だった大陸(中国や韓国)などに現場が作れるようになったことが影響しているわけですが。至るところから才能を発掘することができますし、実際に『BLACK★ROCK SHOOTER』でも、直接会ったことがない北海道在住のmebaeさんという方に原画をお願いして、原画だけもらいましたからね。

――そういう方とはどこで知り合うのですか?

山本 Web上のつながりです。ネットワークの広がりのおかげで、その方は北海道でも活動できるわけです。アニメの活動をしつつ、本業はイラストレーターらしいです。そういう方々がまだアニメに興味を持っている段階なのでまだいいのですが、興味を持てなくなる、あるいは本当に絶望的に食えなくなった時に、「ああ、もうアニメはダメだ」と思って見捨てられたら終わりですね。

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