「ニホンが世界の中心」という考え方の功罪藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2010年07月26日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 7月23日に閣議に報告された2010年度の経済財政白書。中に興味深いコラムがあった(詳しくは「経済財政白書の」の402ページ参照)。タイトルは「ビジネス環境と生活の満足度」。要するに、生活者にとって暮らしやすい社会とは企業にとってもビジネスをしやすい社会なのかどうかという問題である。

 OECD(経済協力開発機構)のアンケート調査による人々の生活満足度とIMD(スイスに本部を置く国際経営開発研究所)の国際競争力指標を使って、両者の関係を検証している。その結果、国際競争力と生活満足度には相関関係があったという。つまり満足度が高い国は、競争力も高いというのだ。さらに生活の質とビジネスの効率性という指標で見ると、より相関関係が強いのだという。

 日本はこれらの指標で言うとだいたい中間に位置する。生活の満足度や質もそれほど高くはなく、また競争力でも北欧やスイス、ア米国、ドイツなどと比べて見劣りする。

 問題はこの状況がさらに悪化する可能性があるということだ。日本企業はますます海外生産に比重を移し、海外企業は日本に新たに投資をするどころかむしろ撤退していく。金融などでは進出してくる海外資本もいるが、それは日本の1500兆円という個人金融資産を狙ってのことだ。カネだけは余っている日本という構図である。

外国企業にとって魅力のない国

 経済産業相では、海外企業を誘致しようとさまざまな活動を展開しているが、その効果はいまひとつ上がっていない。この白書の391ページから401ページにかけて、この対内直接投資(外国企業による日本への直接投資)を扱っている。

 もともと日本への直接投資は悲しいぐらいに少ない。GDP比で外国企業が日本に投資したストックを見ると、日本の場合は3%弱ほど。最近は少し上がっているように見えるが、それはGDPがむしろ減少したからだ。それに対して、英国は40%弱、ドイツが20%弱、米国で15%前後だ。中国はGDPがほぼふたケタ成長しているために、ストックで見ると低下しているように見えるが、外国からの投資も着実に増加している。

 日本はなぜこんなに外国企業にとって魅力のない国なっているのか。この白書では、一番の問題は「人材」と結論付けている。優秀な技術者はいても、英語が堪能な人材を確保するのが難しいとする企業が多かったという。さらにIMDのアンケートによれば、語学のスキルだけでなく、大学教育、マネジメント教育の質に対する評価も最低ランクだ。

 日本企業が人材の多様化(男女だけでなく多国籍化など)を「置き去り」にしてきた結果、日本国内だけでしか通用しない人材が圧倒的多数になってしまったということだ。それでもようやく海外法人で外国人をトップに据えるとか、外国人を本社の経営陣に加えるといった動きが目立ってきた。

 日本企業のいわゆるダイバーシティが遅れてきたのは、日本市場の中で安定した地位を保つことが日本企業にとって最大の目標だったためである。もちろん輸出の拡大も日本企業の大目標ではあったが、国内で「調和の取れた競争」が最も居心地のよいあり方だったのだと思う。典型的には、NTTファミリーのような企業である。携帯電話になって様相が変わったが、それまではNTTに従って機器を生産していればそこそこに事業になった。そしてそのぬるま湯状態から抜け出すのが遅くなったために、海外市場に出遅れた。同時に、国内市場を守るために陰に陽に外国企業を締め出そうとする。その結果、世界最大の携帯電話メーカーであるノキアは日本から撤退してしまう。

 もちろん、ノキアの製品が消費者に受け入れられなかったということもあるだろう。でも世界最大のメーカーがなぜ日本で一定の成功を収めることができなかったのか。それは検証する価値のある問題だと思う。

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