日本商品がやたらとオーバースペックである理由ちきりんの“社会派”で行こう!(1/2 ページ)

» 2010年08月02日 00時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

「ちきりんの“社会派”で行こう!」とは?

はてなダイアリーの片隅でさまざまな話題をちょっと違った視点から扱う匿名ブロガー“ちきりん”さん(Twitter:@InsideCHIKIRIN)。政治や経済から、社会、芸能まで鋭い分析眼で読み解く“ちきりんワールド”をご堪能ください。

※本記事は、「Chikirinの日記」において、2008年11月28日に掲載されたエントリーを再構成したコラムです。


 海外に住んだことがある日本人の多くが感じる疑問、それは「日本ではすべてがオーバースペックなのでは?」ということです。この背景には国民性を含め、さまざまな要因があるのでしょうが、一番大きな理由は「イノベーションが起こせないから、オーバースペックに陥っている」ということでしょう。

 クレイトン・クリステンセン教授が名著『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』で指摘した事態が国全体で起こっている。日本はそんな状態に見えます。

 次の図をご覧ください(注:下記以降の説明は、クリステンセン氏の本の内容の紹介・説明ではなく、ちきりんの考えを独自に図解、説明したものです)。

 商品Aが発売された最初の時点(左下の起点)では、技術は未熟で不良品も多く、故障率も高い不安定な商品です。しかし、何年も作り続けているうちにどんどん改善され、最終的にはほとんど壊れない商品になります。例えば、テレビは今やほとんど故障しませんよね。技術的に安定し、かつ消費者が求める機能は全部装備されています。この改善が赤の実線です。

 でも、その後もこの企業が商品Aしか持っていないと、クリーム色の“オーバースペックゾーン”に入り込んでしまいます。求められている以上に品質を向上したり(=その商品を50年使う人はほとんどいないのに、50年壊れない部品を使うなど)、おせっかいな機能を装備したり、といった具合です。これが赤の点線部分です。

 しかし、もしこの企業が“イノベーション”を起こして、商品Bの開発に成功すれば、企業はよりもうかる新商品Bに事業をシフトしていきます。これが緑の曲線部分で、イノベーションによるジャンプです。

 その後、商品Bもまた“十分なスペック”に到達するまで改善が進み(=青の実線)、それが一定のレベルに達したころには、またイノベーションにより次の商品に移る。このようにイノベーションが一定期間ごとに起これば、その企業や産業の商品はオーバースペックにはなりません。

 一方、イノベーションが起こせない企業は、いつまでも既存商品や既存技術にしがみつくことになります。毎年毎年、細かい改善がなされ、でも消費者はそんな細かい改善に価値を見いださないので対価を払いたがらず、結果として価格競争に陥ってしまう。

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