日本の医療は崩壊してる? それとも期待の産業なの?ちきりんの“社会派”で行こう!(2/3 ページ)

» 2010年08月16日 08時00分 公開
[ちきりん,Chikirinの日記]

社会や生活スタイルの急激な変化

 また単純な“不足”や“偏在”の問題だけではなく、社会や生活スタイルの急激な変化がこの問題の背景にあるようにも思えます。

 まず、需要サイド(患者側)において、夜の活動の増加が考えられます。昔に比べ、今は夜でもクルマの交通量は多く、働いている人も遊んでいる人も増えています。夜の救急患者数は相当伸びているでしょう。

 また、核家族が増え、子どもの数が減ると、ちょっとした異変でもお母さんは赤ちゃんを病院に連れていく以外ありません。医者に会うまで、「医者に行く必要があったかどうか」判定できないからです。

 昔は多くの女性が20代前半で第1子を生んでいたのに、今や30代前半の初産は普通になっています。助産師さんや単科の産婦人科ではなく、脳外科などを併設した大病院でないと対応できないお産も増えているでしょう。このように、医療ニーズ自体が大きく変化していると思われます。

第1子出生時の母の平均年齢の年次推移(出典:厚生労働省)

 一方、供給サイド(医者側)にも多くの変化がありました。昔は医局の教授が若手の医者を“適切に”配属することによって、それなりに大変な職場にも医者が配置されていたかもしれませんが、今や医者向けの転職サイトまで存在する時代です。

 個々人の医者も、自分なりのキャリア形成やワークライフバランス、住みたい地域などを検討しながら働く場所を選ぶようになるでしょう。そうなれば当然、人気のある場所と人気のない場所が生じます。

 また、ある医者が「女性が医学部に増えたのが医者不足の原因」と発言されていましたが、確かに家事や育児を担当することの多い女性は、男性の医者ほどの労働時間はとても働けないでしょう。特に、一部の勤務医の労働時間は尋常ではないと言われており、ほかの産業同様に滅私奉公的な働き方を要求する職場は、女性でなくても敬遠しがちになるのは当然です。また、夜の患者が増えても、真夜中に働きたい医者が同じペースで増えるわけでもありません。

女性医師の数と割合の推移(出典:猪口邦子公式Webサイト)

 このように、需要サイドから見ても供給サイドから見ても、ここ数十年で大きな変化が起こっているのに、制度設計自体がそれに付いていけていないのではないかと思われます。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.