第37鉄 夏の青春18きっぷ旅(1)日本三大車窓とJR最高地点を訪ねる杉山淳一の+R Style(3/6 ページ)

» 2010年08月31日 11時00分 公開
[杉山淳一,Business Media 誠]

 快速列車の新島々駅着は05時08分。駅前には上高地方面へのバスが並んで、100人ほどのお客さんを乗せて去っていく。残された客は私1人。早朝だから喫茶店も閉まっていて、ズラリと並んだバスを眺めて過ごすほかない。ここは上高地の入り口だけあって、気温も低く、ひんやりとした風が心地よかった。帰りの電車の乗客は私1人だけ。途中の駅から通勤客や学生が乗ってきて、松本盆地の「日常」がようやく始まる。

終点の新島々駅。上高地、乗鞍方面のバスが接続する

日本三大車窓「姨捨」で途中下車

 松本駅に戻った時刻は06時24分。篠ノ井線の始発には間に合わなかったけれど、その30分後に発車する長野行き鈍行に乗った。車窓のおススメは進行方向左側だ。松本平を見下ろして、列車は高度を上げて行く。30分ほどで冠着駅に着いたら、今度は車窓右側に移動しよう。ここからが日本三大車窓と言われる姨捨(うばすて)の風景になる。日本三大車窓なんて誰が言ったか知らせないけれど、日本の山岳路線の景色なんてどうせどこも同じ……と思ったら大間違い。トンネルを出たとたんに長野盆地がどーんと広がった。なるほど、これは確かに絶景だ。疑ってごめんなさい。

篠ノ井線の普通列車。通勤通学客で混んでいた

 この「日本三大車窓」区間の途中に姨捨駅がある。かの有名な姨捨伝説があったとされるところだ。老いた母を山に捨てに行く息子と、その息子が帰り道を迷わぬよう、枝に印をつける老母の話。これ、いつ聞いたんだろう。小学校の道徳の時間だったっけ。この姨捨駅で途中下車し、長野盆地の風景をしばらく眺めた。この駅からの絶景はさまざまなメディアで紹介されている。JRもそこを心得ていて、現在、上りホームに展望スペースを設置する工事が行われている。完成は9月末の予定だ。

スイッチバックの姨捨駅に到着。左下の線路が篠ノ井線
反対側を見たところ。右の篠ノ井線の下り具合が分かる

 姨捨駅が作られた理由は年寄りを置いていくためではない。もともと勾配区間の途中で蒸気機関車に給水する基地だった。水平に駅を設置する必要があり、勾配のある本線から分岐して、引き込み線式の駅とした。だから、長野行き列車は分岐して駅に入り、出発するときは後退して本線に戻る。松本行き列車は本線上でいったん停止して、後退運転で駅に入る。これをスイッチバック方式という。スイッチバック駅は蒸気機関車時代には各地にあったのだが、上記のように運転が面倒だ。そこで電車やディーゼルカーの登場によりブレーキの性能が上がると、各地のスイッチバック駅は本線上の駅へと改造された。姨捨駅のスイッチバックは、いまでは珍しいスタイルとなっている。

 姨捨駅は無人駅で、駅舎は昔の出札口などを再現した展示室になっている。展示物からの受け売りになるけれど、姨捨の風景は長野盆地の9つの駅を見渡せるという。夜景もすばらしく、とくに月夜の「田毎の月」が絶景とされているそうだ。棚田のひとつひとつに月が映るというから面白い。次回は夕方に到着して夜まで眺めるとしよう。

日本三大車窓、姨捨駅からの眺め。「AutoStitch」を使ってパノラマ写真にしてみたので、ぜひ拡大画像をどうぞ

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