現在のところ、SPINOZAプロジェクトの目的はあくまで消費データの収集であり、それをどう利用するかは消費者の自由意志に任されている。
しかしながら本当に意味のあるスマートグリッド、あるいはマルチグリッドを実現するためには各世帯の機器に対する遠隔制御が不可欠になる。特に再生可能エネルギー電力が増えると、どうしてもそうならざるを得ない。
例えば風が強くなれば風力発電の発電量が増えるから、電力供給事業者はより多くの電力を消費してもらいたい。そのためリアルタイムで電力料金を変動させ、安い時間帯に洗濯機を動かすとか蓄電してもらうことを期待する。現在、電力料金の割引時間帯は一種類しかないが、近い将来、割引時間帯はさらに細分化されることになるだろう。
ただしそのために必要となる遠隔システムが一般化するまではまだ時間がかかる。制御システムや家電製品開発は可能であるし、すでに生産されているかもしれないが、少なくともドイツではまだ市販の段階にない。
マルチグリッドのもう1つの問題として個人情報の漏えいを心配する声も強い。モデル世帯の消費データからも家族の生活パターンがはっきりと推測できる。こういった情報は家庭向けの製品開発やマーケティングに役立つし、広告産業にも計り知れないメリットをもたらすはず。さらには空き巣など犯罪組織にとっても価値は絶大だ。ドイツ政府はスマートグリッドに関する6個の研究プロジェクトに1億4000万ユーロの補助 を出しているが(参照リンク)、その中には情報保護の研究プロジェクトも含まれている。
スマートグリッドとマルチグリッドの先には、生活インフラだけでなく都市の交通・通信・建物・行政サービス・ショッピングなど生活基盤そのものをスマート、かつ双方向的にカバーする「スマートシティー」という考え方もある。実際、アムステルダムなどスマートシティープロジェクトを推進している都市もある(参照リンク)。
今回はカールスルーエ市の取り組みを紹介したが、これがドイツにおけるエネルギー水道公社が独自に取り組む現段階のレベルと理解してもらっていいだろう。今後求められるのは、まずマルチグリッドの標準化と設備のコスト削減。またコスト負担をどのようにするかといった議論もクリアしなければならない。
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