ドイツ・カールスルーエ市在住ジャーナリスト。東京都立大学工学研究科大学院修了後、1995年渡独。ドイツ及び欧州の環境活動やまちづくりをテーマに、執筆、講演、研究調査、視察コーディネートを行う。記事連載「EUレポート(日本経済研究所/月報)」、「環境・エネルギー先端レポート(ドイチェ・アセット・マネジメント株式会社/月次ニュースレター)」、著書に「環境先進国ドイツの今」、「ドイツ・人が主役のまちづくり」など。ドイツ・ジャーナリスト協会(DJV)会員。公式サイト:「ドイツ環境情報のページ」
シュテゥットガルト近郊にあるヴィネンデンは、この地方ならどこにでもありそうな小さな町だ。人口は2万7000人、普段はのどかなシュテゥットガルトのベッドタウンが、2009年3月11日、突如として恐怖と混乱に突き落とされた。
午前9時ころ、実科学校(日本の中学校に相当)に17歳の少年が押し入り、生徒と教師計12人をピストルで殺害。逃走途中で市民1人を射殺した後、今度はクルマをジャックして40キロ離れた近隣の町へ移動。警察の検問に遭うとクルマから逃げて自動車ショールームに入り職員と客を射殺し、駆けつけた警察隊と銃撃戦になった。少年は警官の銃撃を受けて足を負傷し、最後はピストルで自らの命を絶った。
少年の名は「ティム・K」――。
未成年のため苗字は頭文字しか公表されず個人情報も制限されているが、警察発表によれば裕福な家庭に育ったが孤独でコンピュータゲームに熱中する少年だった。事件の最初の舞台となった学校はティムの母校であり、通学当時は周囲から「負け犬」とさげすまれ、いじめにあっていたという。
犯行に用いられたピストルは父親が所有していた10数丁のうちの1丁で、自宅に保管されていたものだった。青少年の暴力事件は決して珍しいものではなく、時折り銃乱射事件が発生するドイツだが、青少年によるこれほどの惨事は極めてまれで、事件から数カ月は関連ニュースが盛んに報道されたものだった。
1年半ほど経った今、再びこの事件がメディアに登場したのは、ピストルの所有者である父親が起訴され裁判が始まったからだ。銃所有は合法だったが保管はずさんで、鍵のかかったケースに入れず息子が簡単に持ち出せる状態にあったという。
ただし、銃の保管不行き届きは略式命令で処理されるのが普通だ。今回は武器法違反だけでなく過失致死傷罪でも起訴されており、保護者ではあるが直接犯罪に関与していない人間の責任が問われるという、これまでに例のない裁判となった。
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