古書店主が語る、ネット時代の古本ビジネス(1/6 ページ)

» 2010年10月06日 11時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

 駅前や商業施設内など、身近な場所に多く存在していた書店。しかし、インターネットの普及や大規模書店の登場などの影響で、2009年の全国の書店数は1万5482店と、2001年の2万939店から5000店以上も減少している(日本著書販促センター調べ)

 そして、一般書店と対をなす存在である個人経営の古書店も、新古書店チェーンの進出やネットオークションの広まりなどで逆風が吹いている。だが、その一方、西東京などでは20〜30代の若者が個性的な古書店を開業する例も目立っている。

 個人経営の店舗が多いため、なかなかその実態が知られていない古書店。その経営や本の価格の付け方などはどのように行われているのだろうか。東京古書組合が10月4日の古書の日に行った「日本の古本屋セミナー」で、ネットと実店舗を組み合わせた古書ビジネスを展開している、よみた屋の澄田喜広氏が古本屋開業を目指す人たちにその経営ノウハウを語った。

よみた屋の澄田喜広氏

商売のキホン

澄田 古本屋の商売を始めようとする人にまず言いたいのは、「全体を数字でとらえてほしい」ということです。1カ月の収入を30万円にするためには1日いくら売り上げればいいのか、そのためには毎日何冊の本を売ればいいのか、その本の置き場所は、仕入れは……といったことをまずしっかりと計算してください。

 「世の中は計算通り行かない」、その通りです。計算通りうまくいくことはそれほどありません。しかし、失敗する方はたいてい計算通りです。できそうにないことをやろうとしてはいけません。

 よくある例として、「開店資金が少ないから」という理由で、郊外の裏通りで5坪の店を始める人がいます。はやりのセレクトショップ形式で、店の真ん中に棚を置かずに、ダイニングセットを配置する。申しわけないですが、この店は成り立ちません。少なくとも店での販売を重視する限りは苦しい経営になるでしょう。

 普通の古書店の場合、1坪当たり1000冊ほどの本を置くことができます。5坪なら5000冊ですが、店員のスペースも必要なので少し減ります。この例の人の場合、ダイニングセットを置いてしまったので、店には3000冊しか並べられません。

 雑本を扱う場合、商品単価は500円前後です。月収30万円にするためには、月に150万円、少なくとも100万円は売りたいわけですが、週1日定休で月に25日営業とすると、1日5万円前後の売り上げが必要となります。500円の本を売るなら、1日100冊売らないといけません。そうなると1カ月で2500冊を販売することになりますが、3000冊並べているうちの2500冊です。並べている本の83%が1カ月で売れる古本屋はありえません。

 私のよみた屋の場合、並べている本は6万冊ですが、1カ月に店頭で売れる冊数は6000冊くらい、ほぼ1割です。通信販売などもあるので実際はもう少し売れているのですが、同業者の中では回転率がいい方だと思います。古本屋は1〜2年という期間で本を売っていく商売なのです。

 並べている本の1割が月に売れるという数字を、先ほどの3000冊を並べている店に当てはめて考えると、月300冊、1日12冊が売れることになります。この販売冊数で1日5万円の売り上げを確保しようとすると、平均単価は4000円を超えなければなりません。そんな本を毎月300冊もコンスタントに確保できるでしょうか? 何よりそういうお客さんが家賃の安い裏通りに来てくれるでしょうか?

 もちろん、もっと回転率を高めることはできるでしょう。高い本を上手に展開すれば、売れると思います。しかし、限度というものがあります。そういう特殊な商売をしたいなら、それなりの場所で店を出さなければなりません。

 店舗で一番重要なことは立地です。立地の見方は隣の店を見ることです。隣やその隣の店の商品が全然売れていないのに、あなたの店の商品だけ売れる、人がたくさん来る。そういうことはありえません。隣どころか周りに店がないというのは絶対ダメです。両側はお店、できれば物販をやっているところで店を開きましょう。

 不動産の値段が決まる要素はいろいろありますが、商業地に関してはその土地がどのくらいの利益をあげられるかが基本になっています。商売をやって成り立つギリギリに価格を設定するのが大家さんにとっては理想なわけです。そこに店がなかったり、あってもすでに償却している店ばかりだったりしたら、そこは誰がやっても商売が成り立たない土地です。「ほかの奴がやってダメでも、この俺なら」とは決して思わない方がいいです。立地は工夫のしようがありません。

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