シャープ「ガラパゴス」に見る、日本製品の未来それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年10月13日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ハイブリッドイグアナ化する携帯電話

チャールズ・ダーウィン

 iPhone一人勝ちを許すまじと、Android OSを中心とした後続スマートフォン勢が世界的に猛追をかけているが、日本市場でもまた、特徴的な動きが始まっている。

 10月5日付の日本経済新聞の記事だ。

 「なじみの機能搭載 赤外線・メール入力… auの新スマートフォン iPhone対抗」

 記事には11月に発売されると発表されたAndroid OSの新機種「IS03」に関して、タッチパネル式液晶画面採用は当然ながら、「おサイフケータイ」やワンセグなど日本でなじみの機能を使えるようにし、世界規格の米アップル製人気機種「iPhone(アイフォーン)」に対抗するとある。加えて、メールの文字入力も従来の携帯電話向けソフトを活用、音楽配信の「LISMO!」などを刷新と、(一般的な)携帯とスマートフォンの長所を1台に融合させた」(田中孝司専務)との自信をにじませている。

 auだけではない。かなりの投下量(GRP)で繰り返されているdocomoのスマートフォン・XperiaのCM。渡辺謙とダースベーダーの対談でも、「信じられない。あなたがデコメだなんて」 との台詞に、すかさず「スマートフォンでも、iモードのメールアドレスが使える!」とのテロップがかぶる。

 ガラパゴス島では外来種に島固有の生物が追われて生息域が狭められてしまっている。それに追い打ちをかける地球規模の環境変化で、特に海イグアナが主食とする海草が海底から姿を消しつつある。飢えた海イグアナは陸に上がり、本来別種である陸イグアナの生息域に進出した。陸イグアナはサボテンや実や花が落ちてくるのを静かに待って暮らしているのだが、そこに海底を自由に動き回るためのかぎ爪を持った海イグアナが進出してきた。海イグアナは自由にサボテンに登り、実や花を食べる。群れの雄を追い出し、雌と交雑して、やがて海でも陸でも自由に活動できる「ハイブリッドイグアナ」が誕生するようになった。

 日本の従来の携帯電話。世界の中では日本独自仕様であるがゆえにガラパゴス携帯、「ガラケー」と揶揄されたが、今、外来種に追われて「ハイブリッド」が誕生しているように思われる。スマートフォンにケータイの機能を搭載し、利便性を高めているのだ。生き残るために。

 ただ、ハイブリッドには、少々心配なことがある。イグアナに限らず、多くの種で交雑は起こる。しかし、その多くには生殖能力がなく一代限りとなる。ハイブリッドイグアナも現在の所、生殖機能が備わっているかは不明であるという。スマートフォン戦争の「徒花」になる可能性もある。

 「進化論」のダーウィンの言葉としてネット上でよく誤用される言葉がある。

 「強い者が生き残ったわけではない。賢い者が生き残ったわけでもない。変化に対応した者が生き残ったのだ」。いかにもダーウィンが語った風な言葉だが、『種の起源』にその一説はないという。

 その節を引用するなら、「生物の進化は、すべての生物は変異を持ち、変異のうちの一部は親から子へ伝えられ、その変異の中には生存と繁殖に有利さをもたらす物がある(略)そして限られた資源を生物個体同士が争い、存在し続けるための努力を繰り返すことによって起こる自然選択によって引き起こされる」。

 「変化に対応した者が生き残ったのだ」と、あらかじめあるべき変化を予想できるほど、昨今の技術の進化や世界の変化は簡単ではない。ゆえに、「存在し続けるための努力を繰り返すこと」が欠かせないのであり、幾多の失敗の積み重ねから、「変異のうちの一部は親から子へ伝えられ、その変異の中には生存と繁殖に有利さをもたらす物がある」ことを見極めることが大切なのだ。

 その意味からすると、今回の「和魂洋才」的なガラパゴスの取り組みも、スマートフォン+ガラケーハイブリッドも「存在し続けるための努力」の1つだ。結果を楽しみに見守りたい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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