得意技と必殺技、パナソニック対タニタの「活動量計」対決!それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年10月20日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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得意技のパナVS.必殺技のタニタ

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 記事で紹介されているパナソニックの「デイカロリEW-NK30」のウリは、「ダイエット目標設定」。減らしたい体重を入力すると、一定期間で目標を達成するのに必要な1日の消費カロリーが自動で設定される。目標設定まであと何キロカロリーの消費が必要で、そのためには時速何キロで何歩歩くなど具体的なアドバイスがあるという(日経記事より)。実売価格で4000円前後と、手ごろな価格に設定されている。

 一方のタニタの新製品は「カロリズムスマートAM-121」。前機種の容量を40%縮小するなどの改良を加えたというが、何よりのウリはタニタの独自技術にある。記事中には記述が小さいが、消費カロリーや脂肪燃焼量のほか、安静時の代謝などを計測・表示するという。

 ぼーっと座っている時も、寝ている時も、基礎代謝によってカロリーを消費している。つまり、1日分丸ごとの消費カロリーをもとに、「摂取カロリー<消費カロリー」を実現すべくトライできるのだ。そのメカニズムはタニタのホームページに詳しいが、安静時だけでなく、PCに向かって仕事をしている時、掃除をしている時、読書時などあらゆる場面でセンサーが運動を探知し、消費カロリーを測定するという。それこそが、タニタならではのUSP(Unique Selling Proposition=競合が実現し得ない自社独自の提供価値)である。実売価格は競合のパナソニック製と比べて倍の8000円前後だ。

 ダイエットに関しては、タニタは計測器メーカーとして体重計、体脂肪計、体組成計、血圧計、歩数計などの専門。特に体脂肪計はシェアナンバー1だ。それだけではない。自社の社員食堂のメニューをまとめた『体脂肪計タニタの社員食堂 500kcalのまんぷく定食』(1200円、大和書房)が、2010年1月末の発売から約7カ月で90万部近くを販売。「ダイエットのサポートといえばタニタ」というニッチな領域でのブランド価値を高めている。

 ダイエット計測機器、活動計の精度のスペシャリストに対する家電業界のリーダー企業、パナソニックの戦略は、リーダー企業の定石「同質化戦略」である。松下電器時代、下位メーカーが開発・上市してヒットし始めた商品をスピードに勝る開発力を生かして迅速に模倣。強大な販売力であっという間に市場を席巻するのが「得意技」であった。単に模倣するだけではない。同等の製品を規模の経済で低価格にて商品化する「コストリーダーシップ戦略」の典型でもある。

 追われる立場となるタニタの戦略は、「コストリーダーシップ戦略」に対抗する「差別化戦略」に徹することだ。原材料の調達力やチャネル支配力に依存する販売量に劣るため、コストでは勝負できない。価格を下げるのではなく、機能を高めることで差別化を図るのである。つまり、リーダーが真似できない「必殺技」で対抗するのだ。

 パナソニックの「デイカロリEW-NK30」は恐らく、記事にあるような「アドバイス機能」を前面に出して、手軽に、しかしアクティブにダイエットに取り組もうという層を狙った展開を行うと思われる。手頃で試しやすい価格もそれを狙った設定であり、リーダー企業だからこそ実現できるものだろう。

 一方のタニタの「カロリズムスマートAM-121」はパナソニックの倍の価格妥当性をいかに消費者に納得させるかがキモとなるだろう。そのためには、「安静時を含む様々な場面でのカロリー測定機能」とその重要性を訴求し、それを必要とするターゲット層を絞り込み、活用方法の説明、メッセージを展開することにかかっているといえるだろう。

 同種のカテゴリーで全く異なるポジションの企業が、「得意技」と「必殺技」で戦う活動量計市場。パナソニック対タニタからは目が離せない。さらに、9月から医療機器メーカーでありながら一般向けには体温計・血圧計などで有名なテルモも市場に参戦した。どのような戦い方にでるのかも楽しみである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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