汗を流し、山道を分け入る作品体験:瀬戸内国際芸術祭(2/5 ページ)

» 2010年10月20日 08時00分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

 島の南に広がる甲生(こう)地区、棚田が1つの風景となって美しい光景を生み出している。塩田千春氏の作品は、この地区の廃校となった小学校の体育館を使って展開されている。

エキサイトイズム 「遠い記憶」塩田千春

 塩田千春氏は、ドイツを拠点に活動している。泥がついた服をシャワーで流し続ける「皮膚からの記憶」や、家中を毛糸でがんじがらめに覆った「家の記憶」といった、人の心の中で絶対に消えていかない生まれながらにして染みついているような記憶とその痕跡にかかわる作品を多く作りだしてきた作家。そんな塩田氏が今回取り組んだのは、島の廃校を使った「遠い記憶」という作品だ。

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 扉を組み合わせて造ったトンネルが体育館の脇を突き抜けて、その向こうまで見えるようになっている。作品について塩田氏はこう語った。

 「ドアや窓は非常に魅力的なモチーフです、それ1枚あることで内側と外側を隔てるものにもなるし、格子を重ねたときの光の透け感がすごくキレイ。このドアや窓は町長さんが率先し、住民の方々も皆協力して集めてくださった、400枚までは数えていたんですが、たぶんもう600枚くらいになっているのではないでしょうか」

 トンネルの向こうには、美しい田んぼがあった。

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 「奥の田んぼも、最初に見たときには何も生えていなかったんです。ですが、ここに作品を設置して奥に見えるということが分かった後で住民の方が稲を植えてくれて。そのような形で私たちアーティストが来ることで地元の人たちが変わっていく姿が見えたのが非常に印象に残っています」

 島の人びとの記憶を新しい形で紡ぎなおし、新しい一歩を踏み出した作品は住民の人たちの新しい記憶となって積み重なっていくだろう。

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