ゲート前で待機する乗客たちに、搭乗開始がアナウンスで伝えられた。時刻は6時35分。ほぼ予定どおりだ。改札機の横にはチャイナエアラインの孫社長が自ら立ち、乗客一人ひとりを握手で出迎える。そして改札を抜けると、両側に整列していた客室乗務員たちから就航初便搭乗の記念品が手渡された。
機体から車輪止めが外され、いよいよ出発だ。CI223便はトーイングカーに押されて、静かに駐機スポットを離れた。機内の窓からは、グランドハンドリング業務に携わったスタッフたちが機体に向かって手を振っているのが見える。
彼らの仕事は、常に時間とのたたかいだ。定時運航を心がけ、荷物・機内食の積み込みや燃料の補給などを、出発までの限られた時間内に確実にこなさなければならない。昨日、空港で会ったグランドハンドリングのスタッフは「明日の就航初便には多くの人の注目が集まるでしょうから、プレッシャーも大きいですね。出発を遅らせることのないよう、スタッフ全員のチームワークで作業に当たりたい」と話していた。
CI223便の搭乗手続きは、出発の40分前まで続いていた。ぎりぎりにチェックインした乗客の荷物の処理などで、苦労は従来以上だったのではないか。ひと仕事を終えてホッとしている様子が、彼らの表情にも見てとることができる。「ご苦労さま」と、手を振る彼らに私は心の中でつぶやいた。
223便はゆっくりとした速度でタクシーウェイを進む。東京湾の沖合に造成された新しいD滑走路を使うため、タキシング(地上走行)の時間も通常より長めだ。桟橋をわたり、機は滑走路先端の所定の位置で停止した。やがて管制塔からの離陸許可がおり、両翼のエンジンは全開に。シートベルト着用サインが点灯する。223便は勢いよく滑走を開始し、身体がシートの背もたれに強い力で押しつけられた。
7時20分。機体のノーズがぐいっと持ち上がり、シートに伝わっていた振動がふっと途絶えた。その瞬間、キャビンではどこからともなく小さな歓声が上がる。後方のグループからは拍手も聞こえてきた。眼下に、東京湾の景色が広がる。コクピットやキャビンのクルーも、空港で見送るチャイナエアラインの関係者も、そして運よく就航第1便に乗り合わせた私たち乗客も、記念すべきこの瞬間をいつまでも忘れないだろう。
「本日はチャイナエアライン223便、台北・松山空港行きにご搭乗いただき、まことにありがとうございます。私どもチャイナエアラインは、8年ぶりに羽田空港から飛び立ちました。皆様とともにこの日を迎えられましたことを、心より嬉しく思います」
客室乗務員によるそんなアナウンスが機内に響きわたり、乗客全員に東京タワーの形をしたボトルのミネラルウオーターと記念のトランプが配られる。そしてキャビンでは、朝食のサービスが始まった。私は“お粥”のメニューをチョイス。まだ目覚め切っていない身体に、温かいお粥がほどよく調和した。
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