インタビュー:ハイメ・アジョンが九谷焼に挑んだ足跡(3/4 ページ)

» 2010年11月22日 17時23分 公開
[草野恵子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

――今回のプロジェクトでいちばん大切にした部分は何だったのでしょうか。

 九谷焼の技術を理解しつつ、伝統を受け継ぎながら、進化すること。自分のデザインを生かしながら、九谷焼らしさも実現するために、細かい部分まで把握する努力を重ねました。大事なのは進化することで、革命を起こすことではないんです。

――九谷焼としても、今回のプロジェクトは非常に意義深いことだったと思います。長衛門窯としても、デザインを外部の人に託すことは初めての試みでした。

 僕はリヤドロとの仕事で、ポーセリンの研究をしているチームの方から、「あなたはポーセリンの歴史に名を残した」といわれたことがあります。ポーセリンの進化となる足跡を残したということです。今回のプロジェクトも、九谷焼という焼き物の歴史の中に、大きなインパクトを残すことになったのではないかと思います。窯元も僕も、売りたいとか有名になりたいとかいう思いで、このプロジェクトをやっているわけではありません。伝統文化を根絶やしにしないために、こういったコラボレーションをすることによって、その伝統工芸の良さをみなさんに知ってもらい、さらに進化させることによって、今後も伝統が続いていくようにしたいと思っているのです。

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――今回のテーブルウエアを実際に見たときに、とても繊細で、食卓で使いやすい大きさだと感じました。あのスケール感は、スケッチをしている段階から想像していたのでしょうか。

 もちろんです。使い勝手を意識してスケッチしていました。日本の食器は小さく、とても多彩です。ヨーロッパのテーブルウエアはとてもシンプルで種類も少ないのですが、日本の食器にはそれぞれ用途があって、多岐にわたります。「小鉢はこのくらいの大きさで収めたほうがいい」など、細かい部分は窯元と相談しながら、意識して進めてきました。例えば「小皿を1枚だけ」買ったりプレゼントしたりする場合でも、実際にほかの食器と一緒に使えるようなものであることを意識しています。

――今回のプロジェクトでいちばん難しかったことは何でしょうか。

 新しいデザインを反映しながら、それが「九谷焼であること」を人々に理解してもらうこと。そこがいちばん難しかったように思います。現代は、iPadなど大量生産のデジタルガジェット、みんなが安く買うことができるものがもてはやされる風潮があると思います。しかし、そういった最新機器は、年月が経つと新しいものに変わられてしまう。きちんとした伝統を伝えることによって、それを手に入れた人が大事にしてくれるのではないかということを、僕らは期待しています。

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――今後の計画について教えてください。

 たくさんのプロジェクトがあるので、一口にはいえないのですが……。2010年12月にリニューアルオープンするオランダのグローニンゲン美術館をはじめ、来年のミラノサローネに向けてのプロジェクトを複数社と進めています。マドリッドにできるカンペールの新しいお店のデザインをしたり、バカラの新プロジェクトも始まっています。今年は興味深いプロジェクトをたくさんやりました。それと個人的な話ですが、ロンドンとマドリッドに自分の家を建てている最中なんですよ。細かいところまで、自分でデザインしたので、出来上がるのが楽しみです。

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