iPadは終わったのか? いやこれからが本番だ郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2010年11月25日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

Stock→Edit→Postサイクルへのシフト

 iPadの世界は「Stock→Edit→Post」というサイクルで動く、と私と林田さんは考えている。

 Webの海からTwitterやFacebookの書き込みを読み取り、自分もちょこっと書き込んで、またWebの海に戻す。ニュースもブログも同じで、ストックして編集して投げ込む。この繰り返しで、知が集まっては拡散し増幅する。誰もがきっかけを作れるし、コメントもできる。立場も自在に変えられる。それがソーシャル・コンピューティングというものである。

 「文書を作成してプレゼンして報告する」という従来の1人の作業によるコンピューティングはなくならないだろうが、いずれほとんどの作業はStock→Edit→Postサイクルにシフトしていく。みんなが情報を生み出す爆発的な情報増大世界では、ちょい読み・ちょいコメントのスタイルが重要になるはずだ。

 ただ、TwitterもFacebookもフローメディアに過ぎない。情報は体系化されずに、崖から落ちるように消滅していく。それは惜しいことなので、次世代SNSではフローから知のストックライブラリを創るシステム化がテーマになるだろう。

真の電子書籍とキーボード不要論

 さて、Stock→Edit→Postサイクルから見て、2つの疑問に答えてみたい。

 1つは「電子書籍市場が立ち上がっていないからiPadが盛り上がらない」。インターネットコムのネットユーザー調査によると、電子書籍を知っている人は7割だが、読んだことのある人はまだ3割未満。そのワケは真の電子書籍がないこと、iPadには本を読ませる工夫がKindleほどないこと、そしてマネタイズの仕組みに乏しいので出版社が積極的でないことにある。

 今は既刊本の文章をそのままデータ化しただけのものを電子書籍と称しているが、それでは高く売れない。「自炊」(スキャナでiPadに本を取り込む)で読むのも同じだ。村上龍氏が電子書籍『歌うクジラ』で坂本龍一氏の音楽を入れたように、印刷本の価値を超える仕掛けを加えてこそ真の電子書籍となる。

 電子書籍からWikiへとつながり、コメントを付けられる、著者と対話できる、商品を購入できるといった機能が欲しい。しかし、多くの出版社はそんな仕掛けを組み込む体制も、ネット販売ノウハウも確立していない。またiPadは、Kindleのように読書に特化した画面がないデメリットもある。

 読者に電子化の本当の利便性や価値が届かないから、「電子書籍は印刷本の2分の1の価格」というように、価格で勝負するしかなくなる。これでは商売にはならない。

 もう1つの疑問は「タブレット端末にキーボードはいるのか?」ということ。

 iPadケースとキーボードが一体化した「Crux 360 case」は良い。「これ欲しいな」と林田さんに言うと、ピシャリとたしなめられた。

 「iPadにキーボードをつないで入力すると、単語変換のつたなさを思い知りますよ」

 キーボードがあるのに、単語変換時にはタッチして単語を選ぶ作業は変だ。日本語の壁とも言えるが、やはりiPadは“参照&コメントマシン”のスタイルがピッタリなのである。来春発売のHP「Slate 500」は良さそうだし、ほかにもiPadもどきのタブレット端末は増えている。だが入力型ノートPCに近付けば近付くほど、Stock→Edit→Postサイクルの革新性は失われてしまうのではないだろうか。

Crux 360 caseに入れたiPad(出典:crux)

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