マクドナルドがデリバリー市場を破壊する?(2/2 ページ)

» 2010年12月15日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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注目の価格設定

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 マーケティングとは消費者と企業の「価値の交換活動」である。デリバリーサービスにおける、「価値」の実現と、その「対価」に注目してみよう。

 そもそも、消費者がデリバリーサービスに期待することとは何だろうか。

 デリバリー。古い言葉で言うならば「店屋物」もしくは「出前」。両者に続くのは「〜で済ます」という言葉なので、「味」に期待するのではなく、「手軽さ」や「時間節減効果」である。「Time save」が中核的価値なら、それがどのように実現されるかという実体は、チェーン化されたデリバリーサービスならではの「当たり外れがない」ということだろう。

 では価格はどうか。

 デリバリーサービスにおいては、「手軽」という中核価値を実現している、従来型の飲食店、例えば住宅街に近い中華料理屋の場合を考えてみよう。出前をしない、ラーメン専業店の相場は、おおむねその時代の「タクシー初乗り料金」と同等とよくいわれることから750円〜800円程度。住宅地の店はそれより安く650円〜700円程度だろう。そば屋の基本的なメニューも同等だ。価格は店内価格と出前の場合と同じ。

 デリバリー専業のピザーラ。ロングセラーの「ピザ・モントレー(トマト味・カレー味)」はMサイズで2100円。2人で分ければ1人前1050円で配達料込みということになる。

 CoCo壱番屋は配達料がカレー1皿あたり100円+1軒200円だ。カレーの価格はメニューによるが、中間価格帯は750円程度だろう。1皿配達なら 1050円となる。費用の根拠としては、片道10分の宅配に時給1000円のアルバイトを使った場合、1注文あたり333円を価格に転嫁すれば赤字にはならない。

 ピザーラのように価格に込みにするか、CoCo壱番屋のように別料金にするかの違いで、両者の価格帯が同等なのはポリシーが同じだからだろう。こう考えると、配達料が高く感じるが、「手軽」という中核的価値に加えて、「当たり外れがない味」という実体の付加価値分も含めて消費者は受け入れていることが分かる。

 価格設定には3Cの視点が必要だ。自社視点(Company)・顧客視点(Customer)・競合視点(Competitor)である。

 前述の例で、顧客視点で「この程度までなら払っていいと思う価格(Customer Value)」に基づいているのが、「ラーメン1杯=タクシーの初乗り料金相当」。そして、専門店でないので、それより少し安めに設定して、配達料込みにしているのが、住宅地の中華屋やそば屋の価格だ。その価格に比べて、自社視点で配達料を価格に転嫁している分だけ割高になっているのがピザーラやCoCo壱番屋の例になる。

 マクドナルドはサービス開始に当たって、値上げか、別途宅配料を徴収と表明している。しかし、まずは1店舗で試験を開始し、徐々に全国展開という段階的施策は「赤字を出さないギリギリの配達料金(もしくは値上げ)」を探るためだと思われる。

 代表的なセットメニューである「ビッグマックセット」は、地域別価格の平均が650円程度となるだろう。その場合、ピザーラやCoCo壱番屋の配達料と同じロジックなら、メニュー100円値上げ+配達料1軒200円で、配達人件費1件333円をまかなって約1000円となるはずだ。

 この値段を顧客視点で考えると、あくまで筆者の感覚値になるが、マクドナルドのセットに1000円は少し高すぎる。となれば、さらに低廉な価格転嫁か配達料の設定を考えているはず。例えば、「配達はセットメニューのみ。店頭メニュー価格+100円で、注文は3件以上。宅配料は無料」というような設定だ。

 先行するデリバリー専業や、デリバリー対応飲食チェーンに対して、どのようなポジショニングで挑むのか。「競合視点」で驚くような価格設定に出ると筆者は予想するが、その設定から同社の意図が見えてくるだろう。

 強大な力を持ったコストリーダーが、別の業界に進出したり、今まで以上に注力したりした時、既存のプレイヤーは甚大な被害を受けることがある。米国において2005年に米ウォールマートがおもちゃに力を入れたことによって、米トイザらスは一時、投資会社に身売りをすることになるという憂き目を見た。

 24時間体制・1300店以上の市場カバレッジとコスト競争力で、外食事業において向かうところ敵なしの日本マクドナルドが、デリバリー事業に進出をするということは大きな変化を業界内にもたらすことは間違いない。

 2011年の夏、全国規模での展開がどのような形になるのか、目が離せない。

※参考記事:2010年12月8日付日本経済新聞「マクドナルド、配達参入――ブランド生かし顧客開拓、成長の柱に育成(戦略分析)」

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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