なぜパン焼き器GOPANは人気なのか?それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2010年12月08日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2010年12月3日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


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 もはや「GOPAN(ゴパン)騒動」と呼んでもいいだろう。7月に「10月8日に発売する」と発表したと同時にテレビなどで大きな話題になり、予約注文が殺到。発売を1カ月延期し、11月11日の発売と同時にさらに予約は加速。今年度販売見通の5万8000台をすでに超えたため、製造が間に合わないとして予約受付を中止。中国の工場に製造ラインを新設することを検討し、受付再開は来年4月だという。「それでも手に入れたい!」という人も後を絶たない。ネットオークションでは、実勢価格4万9800円の約2倍、10万円の価格が付いている。

 11月26日付日経MJ1面に「パン焼き器『GOPAN』体験型販促 流通を刺激』と、関連記事が掲載されている。三洋電機コンシューマエレクトロニクスは、ホームベーカリー市場年間43万8000台(2009年)のうち3〜4万台のシェアを持っている状態だったという。それが、単一機種で従来の販売数の倍以上にのぼる予約を獲得したことになる。

 記事では「消費者の体験を重視し、都内で期間限定のカフェを開いたり、都内の製菓・製パン材料店でデモンストレーションしたりした」という点を強調している。それが、米粉パンが普及する中でふくらんでいた「わが家でも作りたい」という潜在需要が一気に顕在化したと分析している。

 もともと、米粉でパンを焼けるホームベーカリーはこれまでもあったが、米粉が一般のスーパーなどでは入手困難なことから、普及していなかった。「どこの家庭にもある米粒で気軽に作れるものを」と着想から5年をかけて製品化したという。

 確かにGOPANの大ヒットには販売促進(Promotion)の成功という要素が大きく働いている。それも、従来型のマスメディアのプッシュ型コミュニケーションではなく、インターネットを中心としたプル型・口コミ中心のコミュニケーションが販売を加速した点が大きい。 

 それは、2009年8月に発売され、ネットでの話題が話題を呼んで、今なお店頭では品薄が続く「桃屋の辛そうで辛くない少し辛いラー油」、通称「桃ラー」のヒットにも通じる。「手に入るうちに、何とかして手に入れよう」「手に入らないと聞くと欲しくなる」という、一種の飢餓状態がネット上で沸き上がったのだ。

 新製品のプロモーションに着手するのは通常、発売の3〜4カ月前だが、GOPANの場合は10カ月前の2009年12月ごろ(日経MJ)というから、力の入れようが分かる。綿密に設計をしたのだろうが、ここまで盛り上がるとは、予想していなかったのではないか。Twitterやブログなど、今や本当に良い商品は口コミで瞬く間に世間に広がっていく。ネットで話題になれば、大手メディアも飛びつく。記事化されれば、さらに口コミが加速する……。

 プロモーションが功を奏したことは間違いないが、GOPANという製品(Product)のすばらしさと相まって効果を挙げたことを忘れてはならない。GOPANは「世界初のコメからパンが作れるホームベーカリー」であり、そもそも「米粉が入手しにくいため、米粒をペーストにして焼く方法を考案した」というイノベーションなのである。

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