なぜパン焼き器GOPANは人気なのか?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2010年12月08日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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ヒットを生む整合性

 まずはどんな製品なのか、動画でご覧いただきたい。

三洋電機、お米で「パン」がつくれる「GOPAN」を発売 : DigInfo

 イノベーションが普及する要件をE.M.ロジャースが5つにまとめている。

(1)相対優位性

 前述の通り、従来も米粉を用いるパン焼き器はあったが、米粒から作れるという代え難い優位性がある。また、米粉は小麦粉と比べて独特のモチモチ感があり、それ自体がすでにブームともなっていた。

(2)両立性

 すでにあるものと置き換えたり、放棄したりせずに済むという意味では、既存のパン焼き器ユーザーよりも、新規ユーザーが新たに「ホームベーカリー」を取り入れ、同じ米粒という食材で「パン食」と「ごはん食」を両立できるという、両立性の気軽さが受けたのだと思われる。

(3)試用可能性

 お試しやデモでの購入前確認ができることは、三洋電機の販促の設計通りだ。さらに、試食した人などが「海苔の佃煮や納豆など、和食素材をのせて食べるとおいしい」などという書き込みをネットにしていることも試用の代替として機能している。

(4)複雑性

 消費者が理解できないほど原理が複雑ではなく、ありがたさが分かる適度な複雑さを持っていることも普及の要件だが、「米粉を本体内で炊飯器のようにコメを水にひたして軟らかくした上で、高速回転する羽根で砕き、ペースト状にして焼き上げる」というような説明がメーカーからなされている。なるほど感が適度にあると言えるだろう。

(5)観察可能性

 「目に見える効果」を意味するが、誰も製品を手にしていない状態で盛り上がっているため、家庭内での使用者の観察はなされていない。しかし、前述の試用可能性にあるネットの書き込みなどを参照することによって、「見える化」された効果を代替的に実現している。

 本体の約5万円という価格(Price)はどう消費者に受入れられたのだろうか。従来品の2倍の価格だという。さらにネットでのオークション価格はさらにその倍の価格が付いて、それでも買い手がついている。

 Price(価格)ではなく、Customer's cost(顧客のコスト)という視点から見てみよう。イニシャルコストとランニングコストの両面で考えると、売れるワケが見えてくる。三洋電機によると米粒を使って1斤のパンを作る費用は、従来の米粉を使う機種は340円であるのに対し、米やイースト、グルテン、砂糖などの材料を合計しても150円だという。

 つまり、コンビニやパン屋で食パンを買うのと同価格なのだ。初期費用はかかるものの、それ以降は食パンを買ったり、ごはんを炊いたりするのと同じ感覚で、ランニング費用を意識することなく、焼き立てモチモチのパンが楽しめる。

 販促(Promotion)、製品(Product)、価格(Price)と、ヒットのヒミツを検証してきたが、流通(Place)はどうだろうか。日経MJの記事に記載がある。「ブログやTwitterでも大きな話題になった。こうした消費者の反応に接したバイヤーが売れると確信し、思った以上の発注につながった」という。

 つまり、GOPANの大人気は消費者がプル型で話題を盛り上げたもので、その背景には優れた革新的な商品(Product)の特性があり、消費者が納得する価格(Price)があった。そして、消費者の人気、話題を見て、流通(Place)も販促に協力したり、大量の発注を決めたりしたという背景があるのだ。

 全体のマーケティングをどこまで設計し切れていたかは担当者に聞いてみないと分からないが、日経MJによると、「マーケティング本部をからめ、大々的にデビューさせないと、新市場を創造できないと考えた。月1〜2回リーダー会議を開き、8つのワーキンググループで生産や販促の計画を綿密に詰めた」という。

 売れる商品にはワケがある。それは、いわゆるマーケティングの4P(Product・Price・Place・Promotion)のどこか1つが優れているのではなく、相互補完的にヒット商品としてのヒミツを作り出しているのである。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。

「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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