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» 2010年12月31日 08時00分 公開

アニメ化は必ずしもうれしくない!?――作家とメディアミックスの微妙な関係 (3/4)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

創作活動の停滞が、アニメ化の後には起こりやすい

 ……と言いつつも、アニメ化されると良いことも多いです。まず、知名度が上がります。作品の知名度が上がればやはり手にとってもらいやすくなりますし、何より本屋に置いてもらいやすくなる。アニメ化による宣伝効果で販売部数が増えればそのまま収入になりますし、アニメのDVDやグッズが出れば二次収入も入ります。

 これらは分かりやすいメリットですが、何よりこれだけアニメ化される作品数が増えてくると、アニメ化されていることが人気のバロメーターになるんですね。「アニメ化された作家だから大丈夫だろう」みたいな買い方も発生しますし、作家としてのポジションが安定して、いろんな出版社から声をかけていただけるようになったり、新刊があまり売れなくても次の巻を出してもらえるようになったりします。「書き続けられる場所を得られる」ということが、一番大きなメリットになると思います。逆に言うと、これを手に入れないと作家としては非常に不安なわけです。

 また、作家になって出版社主催のパーティなどに行ったら、作品がアニメ化された作家が10〜20人くらいいらっしゃるのですが、その人たちはだいたい固まって話しているんですね。それで、作品がアニメ化されてない作家は、それを違う側で見ているわけです。そこに埋めがたい距離感というのがあるので、みんな何とかして向こう側に行こうと必死なわけです(笑)。

 僕はゲームのシナリオライターとしてすでに10年のキャリアがあったので、小説を書くに当たっていろんなことを考えました。「どうしたらアニメ化されるか」を考えて、例えば『迷い猫オーバーラン!』の初期は隔月で1巻ずつ出していって、1年間で6巻出しました。それは先ほどお話ししたように、巻数がたまっていることがメリットになるということと、とにかく(ライトノベルの)作品数が多いので、早く次の巻を出さないと忘れられてしまうということがあります。

 また、アニメの制作サイドにいた経験からも、メディアミックスする側にとって原作が定期的に出ていることはものすごく重要だと分かっていました。せっかくアニメ化されても突然、新刊が出なくなると、「何のためにメディアミックスしたんだろう」ということになりがちですし、そういうことは後に理由も言いますが、ビックリするほどよく起こります。

 それではアニメ化によるデメリットは何か。これはほとんどの作家が周知として知っていることで、その上でもアニメ化してほしいと思っているという前提なのですが、1つは(先ほど言ったように)「アニメの出来不出来=原作の出来不出来」として扱われてしまうことです。

 これはアニメの出来が良い、悪いに関わらず、自分の作品の評価にそれによるバイアスがかかります。つまり、原作よりアニメの方がすごく面白い場合でも、原作者の心は折れます。原作よりアニメの方がすごくつまらない場合も、自分の作品が売れなくなるので、原作者の心は折れます。もちろん自分の作ったキャラクターと同じキャラクターがアニメにも出ているのですが、作っている人は違うので、本来、切り離して考えなければいけないのですが、それは非常に難しい。

 そのため、アニメ化される時は、作者側としてはかなり腹をくくらないと、首を縦には振れません。漫画家の場合は今、本当に首を縦に振らない人が増えています。とても人気があるけどアニメ化されない漫画は、漫画家が「嫌だ」と言っているんですね。先ほど言ったように、漫画は巻数をためることに難しさがあります。人気がある作品でも、アニメがこけたことで何となく終わった感を作られてしまい、販売部数が減ってしまう危険性が高い、もしくは自分の意に沿わないアニメが作られることによって嫌な気分が発生し、モチベーションが下がるのが怖いということで、漫画家はアニメ化についてシビアに考えるようになっている印象があります。

 ライトノベル作家の場合は、(アニメ化して失敗した作品を)終わりまで書くのをあきらめて、新作を書き始めてしまうといった作戦がとれるので、アニメ化に対しての熱意が強い人が多いようには感じます。

 また、今の話と関連していますが、「アニメの終了=原作の終了」ということになりがちです。アニメ終了後に販売部数を伸ばす作品はまれで、途中でのアニメ化が作品の寿命を短くしてしまうというデメリットが発生します。そして、アニメが無事終わり、原作も無事終わったという状況になったとしても、そのアニメ化された作品の次回作というのはどうしてもハードルが上がるんですね。読者側からの期待という意味でもハードルが上がりますし、作家側としても「一度アニメ化されたわけだから、次もアニメ化されるような作品を書かないと」という気持ちが起きやすくなってハードルが上がります。

 アニメ化されると一時的に販売部数が伸びますし、アニメ化による収入もあるので、そこそこ貯金が増えたという状況になると、考える時間というのが生まれてしまうわけですね。原稿料がもらえなくて、食えない間はみんな書くのですが、貯金通帳にお金があって「1年くらい暮らせるな」と思うと、「いい作品を書くために、もっと時間を使うべきではないか」と考えるんです。だいたい作家というのは、みなさんが思っているより真面目な生き物なんです。

人気ライトノベルの谷川流著『涼宮ハルヒ』シリーズの場合、2006年4〜7月にアニメが放映されるまでの3年間に8巻まで出版されていたが、その後は2007年に1巻、2011年(予定)に1巻と大きくペースを落としている(出典:角川書店)

 こうした創作活動の停滞が、アニメ化の後に起こりやすいという状況があります。余談ですが、「そうならないために、飲むか馬(競馬)かで金をなくしておくのはいいことだ」と業界では言い伝えられています。両方すると身を滅ぼすという話もよく聞きますが(笑)。

 ですので、アニメ化の最大のデメリットは、アニメ化後に作家が新作を発表することの難しさと生みの苦しみではないかと思います。これは漫画化や大規模な宣伝があった場合でも同じです。下駄を履かせてもらっている感じが作家側に必ずあって、「作品が自分の力で売れているのではなく、メディアミックスによって売れているのではないか」と感じて、「次も同じようなことをしてもらえないと、同じように売れないんじゃないか」という恐怖と戦い続けることになるのです。

 調べたくないので調べませんでしたが、作品がアニメ化された作家の次回作というのは、結果としてビックリするほど時間が空いたり、スタートしてもすぐに終了してしまったりすることが多いはずです。そのため、作家もアニメ化されることが手放しで喜べることだと思っているわけではない部分もあることは理解していただければと思います。

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