物価の優等生が皮肉な結果に……汚染された“ダイオキシン卵”松田雅央の時事日想(3/4 ページ)

» 2011年01月20日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

十分生かされなかった教訓

 食肉汚染問題でまず思い起こされるのは、2000年に欧州で猛威をふるった牛海綿状脳症、いわゆるBSEである。当時、ドイツ国内の牛肉消費量は50%も減少し、多くの生産農家や精肉業者が休業に追い込まれている。小売店の牛肉には「この肉は検査済みです――農水省」という札が張られるなど業界は信用回復に努めたが、パニックが収束し牛肉消費量が元に戻るまで1年以上要した。

 あくまで比較の問題だが、今回のダイオキシンスキャンダルはBSEスキャンダルほど規模が拡大せず、消費者にもパニックはみられなかった。

 ドイツのダイオキシンスキャンダルはこれが初めてではなく、1999年にも似たような事件が起きている。その時も油脂メーカーがダイオキシンに汚染された飼料原料を販売し、汚染されたブタ肉と牛肉が消費者の口に入ってしまった。それを契機として安全対策は強化されたはずだが、残念ながら不十分であったと言わざるを得ない。ドイツの農相は今回の事件を受け安全対策の改善を約束しており、工業用と飼料用油脂の生産施設の分離義務化、飼料メーカーによる品質チェック義務の強化、罰則強化などが実施されそうだ。

小規模酪農家の乳牛

物価の優等生

 もちろん安全対策の強化は必要なのだが、責任の一端は、ひたすら低価格商品を求める消費者にもある。

 日本だけでなくドイツでも「卵は物価の優等生」と呼ばれ、ここ20年ほど、ほとんど値上がりしていない。先ほど安売りスーパーで卵の小売価格をチェックしたら、1パック10個入りで1.3ユーロ(143円)の値がついていた。これはリンゴジュース1ビン(1.5リットル)や封書の切手2枚分に相当し、マクドナルドなどで安いコーヒーを飲もうと思ってもこれでは足りない。

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