回転寿司戦争、スシローやかっぱ寿司の天下は続くのか?それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年01月26日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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回転ずし業界のKSFとは

 スシローがカッパ寿司を抜いた要因を、ZAKZAKの記事は、「勝因は『素材の良さ』というから、回転寿司では安さよりもネタのほうが重視されるようだ」と分析している。

 確かにネット上ではスシローのネタの良さに対する賞賛が散見される。昨年中ごろから、回転寿司業界に限らず、外食産業全般で「価格競争は行き着くところまで行った。後は質をどう高めていけるかの勝負になる」という論調が目立つ。一方で、「すき家」が「吉野家」を圧倒したことも記憶に新しい。もはや、価格は安いまま、顧客の期待値をはるかに超える質の高いものを提供する、「スーパーバリュー」競争の時代に入ったのだろう。となると、絶対的で継続的なKSF(Key Success Factor:成功のカギ)とは何か。

 独立起業するとすれば、最も参入障壁が低い業界の1つが飲食業だ。材料を仕入れ、調理し、客に提供するというバリューチェーンのシンプルさがその理由である。バリューチェーンは日本語に訳せば「価値連鎖」。ビジネスの仕組みのどこでどれだけコストをかけ、付加価値を創出するかということを表している。

 「安さ」より「素材」とはいえ、回転寿司の価格帯で寿司を提供しようとするなら、ある程度の安さは必須要素だ。そこでモノをいうのは「規模」である。原価に占める固定費率は販売数量が多くなればなるほど低減できる。「規模の経済」という。固定費とは、研究開発費・設備費・広告宣伝費。人件費や原材料費などの変動費に関しては、規模が大きくなれば、単位時間あたりの生産性を向上させることで人件費率は低減できる。原材料費は大量購買による価格交渉力の向上で低減を図ることになる。

 回転寿司業界はなぜ、下克上が起こりやすいのか。それは、「仕入れ」→「調理」→「接客」という飲食業のバリューチェーン上で、差別化要素が少ないからだ。「接客」という俗人要素を極限まで削減したサービス。調理は「握り」といっても、シャリは「寿司ロボット」が握る場合が多い。調理という製品の加工度を高めるプロセスや、接客というサービスで付加価値を付けるプロセスが削減されているから、どうしても「仕入れ」の段階に依存する比率が高くなるのである。

 競争戦略は、大きく分けて3つある。1つはコストを武器に戦うこと。「コストリーダーシップ戦略」という。もう1つが差別化要素で戦うこと。「差別化戦略」という。もしくは、特定市場に集中して戦うこと。「集中戦略」という。

 この戦いは、「回転寿司」という特定市場の中での戦いだ。そして、そこは差別化困難な市場だ。コストリーダーをめぐる戦いは「水の中で息を止め合う勝負」のようなものだ。勝負のポイントは、原価率を抑えること。そのためには前述の通り、「規模」がモノをいう。どこも規模化してトップを取り、価格交渉力を握ることを狙う。その一方で、利益率を抑えて原価率を高めるガマン比べをするのである。しかし、ガマンにはおのずと限界がある。ガマンは絶対的で継続的なKSFたり得ない。ガマン比べをすれば、牛丼業界の二の舞だ。

 筆者は明確な解を持たないが、1つの活路は「グローバル」にあると思う。日本国内で血みどろの戦いを繰り返せば、疲弊し、グローバルに戦う余裕を失う。むしろM&Aなどで国内での競争に一定のケリをつけた上で、キャッシュを潤沢に生み、それをグローバル展開の原資としていく戦略も当然考えるべきだろう。世界中ヘルシー食ブームで、需要は高い。日本人の食の象徴でもある寿司で海外勢に後れをとっては悔しすぎるではないか。

 いずれにせよ、回転寿司業界は、“生”のビジネスを学ぶにはもってこいの教材だ。色々な店に足を運び、業界をウォッチし続けていきたい。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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