同企業は、経営陣の新旧交代を果たしたばかりであり、その動向が注目を集めていたタイミングにあった。
通信社は内外の新聞やテレビ、あるいは雑誌にも情報を提供するニュースの卸問屋的な存在だ。件の役員はこうした仕組みを知り尽くしており、自社に有利な情報を、通信社を通して発信したわけだ。
もちろん、普段リーク情報を当たり前のように受けていた某紙は、面子を潰された格好となり、待ったなしで後追いするのは計算済みだった。
先週の当コラムで触れた通り、日本のメディア界においては、1社が抜きネタを放った直後、同業他社は大騒ぎとなる。
基本的なファクトさえ間違っていなければ、先行した社の原稿をなぞっただけの内容で、いち早くキャッチアップすることが求められるのは先に触れた通りだ。
逆に、懸命に巻き返して新たな要素を加えたり、あるいは先行した社とは別の観点で原稿を書いた際、「この後追い、トーンが違うけど大丈夫なの?」とデスクに問いつめられる場面がしばしばあった。これは筆者だけではなく、他社の記者からも同じような事柄を度々聞かされた。
1社に先行を許した際、抜かれた側の担当デスクも上司である編集幹部からどやされる。メディアに籍を置いているとはいえ、しょせんは上役の顔色を気にするサラリーマンである。後追い原稿の中身の精査よりも、いち早く追いついたという事実が優先するというのだ。換言すれば、デスクは自社の原稿を信じない。一刻も早くキャッチアップするのがデスクの役割と信じて疑わない人物も少なくない。
冒頭に登場した役員の話には続きがある。
この役員は営業畑が長い人物だったが、キャリア形成の一環として広報部に在籍した経験があった。この際、日本のメディア界が抱えるこうした歪んだ習性を把握し、逆手に取ることを考えたという。
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