警察小説の作り方が変わったワケ――ここでも団塊世代の影響か相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年02月17日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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 筆者は『みちのく麺食い記者シリーズ』(小学館文庫、双葉文庫)、あるいは他の著作の取材に当たり、多数の警察関係者に接した。この過程で「作中の捜査手法にあれこれケチをつけながらも、ミステリーや刑事モノを読んでいる」(警視庁関係者)といった証言に数多く接した。過酷な仕事に従事する多数の人が、関連作品に強い思い入れを持っていることを筆者は皮膚感覚で知った次第だ。

スキル継承、悲痛な願いも

 警察を扱った小説、あるいはドラマが増えるにつれ、その中身も旧来の作品とは様変わりしているのをご存じだろうか。かつて刑事ドラマで定番だった「取調室でカツ丼」「容疑者への暴行」などのシーンを描いている作品は現在ほとんどない。

 『半落ち』(講談社文庫)、『第三の時効』(集英社文庫)などで横山秀夫氏がリアルな警察官の姿を描いて大ヒットを放って以降、「“ビフォー横山、アフター横山”の格言が生まれ、本物の警察官が違和感を持たないよう考証には注力している」(某局ディレクター)からだ。警察モノのジャンルが確立され、主要な読者(視聴者)である警察官が強く意識されたからに他ならない。

 警察作品の人気が高まるにつれ、先に触れた通り考証の重要度は着実に上がっている。情報番組のコメンテーターでお馴染みのOBたち、あるいは警察関連団体のスタッフが多くの作品に関わっている。「ブームを好機ととらえ、少しでも警察組織のイメージアップを図りたい」(某幹部)という意識が働いているのは間違いない。

 巨大組織の幹部たちの政治的な思惑がある一方で、現場の捜査員の中では切実な声も上がっている。実は、筆者を含めた創り手の人間は、こうした現場の声を重要視しているのだ。その切実な声とは、民間企業と同様、警察組織も団塊世代の大量離職という問題に直面していること。

 事件現場周辺を丹念に聞き込みする「地取り」、事件当事者の人間関係を精査する「鑑取り」、あるいは容疑者の取り調べなど、警察の中にはその道のプロが多数存在する。しかし「ベテランの大量離職で、名人芸とも言えるスキルが消えてしまう」(先の警視庁関係者)との懸念が根強いのだ。

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