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» 2011年03月11日 08時00分 公開

100円寿司時代に高級路線で成功した理由とは?――金沢まいもん寿司・木下孝治氏嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(2/5 ページ)

[嶋田淑之,Business Media 誠]

一級建築士が回転寿司店経営者になるためにとった奇策

 木下さんは寿司職人として、現場から叩き上げた経営者ではない。もともとは故郷の金沢で建築設計事務所を経営する一級建築士であった。若いころから食の世界に関心があったため、異業種交流会活動での出会いを通じて、回転寿司店の経営に乗り出すことになったのである。

 「でも、寿司職人としての修業経験はおろか、今に至るまで電気釜のスイッチを入れたことすらないんですよ」と笑う。

 金沢といえば加賀百万石の食の伝統を受け継ぐ町であるだけでなく、日本海の海の幸の集積地であり、舌の肥えた人たちも多い。そんな町で「寿司業界と無縁だった異業種の人間がいきなり寿司店を開店する」というのは、話題性はあるかもしれないが、違和感の方が大きいだろう。そこで、木下さんは一計を案じる。

 「まず、自分のことを知る人がいない、それも“海がない県”に行って、競合店のないところで土日限定オープンの鮮魚店を始めました。地元金沢と違って、万一うまくいかなくても本業に影響しないですしね。

 具体的には岐阜県の岐阜羽島でやりました。『金沢の近江町市場を再現する』というコンセプトで、実際に近江町市場から鮮度抜群の魚介類をクルマで2時間ほど飛ばして運び、プレハブ小屋で販売したんです。そしたら、それが評判になりましてね。

 それを半年間くらいやってから、今度は『魚屋がやっている回転寿司屋』というコンセプトで、金沢に回転寿司店をオープンしたのです」

近江町市場公式Webサイト

 非常に戦略的な出店と言えるが、そうした姿勢はその後の関東進出の際も発揮された。日本を代表する超一流の寿司店が軒を連ねる都心の一等地でもなければ、「食べ物は何でも激安が一番」という住民気質の地域でもない、高級回転寿司の顧客ターゲットとなり得るクラスの人々が多く住むエリアを選んだのである。

 例えば、今回の取材地である横浜市青葉区のたまプラーザは、平均年収が比較的高いアッパーミドルクラスが多く住んでおり、クオリティ・オブ・ライフを追求するタイプの人が多いと想像される。とはいえ、超一流店に通いつめるという層でもないので、高級回転寿司の顧客ターゲットとして適合していると言えるだろう。

 そうした人々の潜在的な欲求に訴え、「ああ、自分はこういう回転寿司店に入ってみたかったんだ」と思わせている仕掛けの1つが、独創的な店舗の構造やデザインだろう。さすがに一級建築士だけあって、木下さん自身の思いを明確に表出していると言うべきだろうか。

 「この店舗のコンセプトは“雅(みやび)”です。赤・黒・金を基調にしていますが、これは、金沢で加賀百万石の時代から大名屋敷や芸者置屋で用いられた色彩をイメージしているんです。例えば、この赤があとちょっとだけ強くても嫌らしい感じになりますし、バランスが大事なんですね。この色のおかげで女性同士で入りやすくなっていて、奥さんたちの会合や忘年会などにも使われています。

 こうした色彩のバランスに加えて、価格・ネタ・サービス・雰囲気などのトータルバランスが非常に大事な要素で、それ次第でお客さまの入りも全然違ってくるのですが、金沢まいもん寿司の場合は、その点で卓越していると自負しています」

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