ここ数年、食品をめぐる偽装事件の発覚が跡を絶たず、つい最近も氷見の寒ぶりの偽装(参照リンク)が発覚したばかりで、今や食への信頼は失われている。それについては、どのように考えているのだろうか?
「現代は社会に向けてウソをついても、結局は内部告発でバレてしまう時代です。以前であれば、バレそうになれば議員に頼んで何とかしてもらうということもあったかもしれませんが、今はもうそのような情報操作の時代ではないのです。だいたい、そんな偽装なんてやっていたら、従業員の士気も下がる一方ですよ。それじゃダメだ。『従業員が、自分の会社や店を家族に誇れるような存在にしないといけない』というのが私のモットーです」
それを実現するために、具体的にどんな施策をしているのだろうか?
「人作りです。現場の自主性を高めて裁量権は積極的に移譲し、彼らの力で“金沢まいもん寿司らしさ”とでも言うべきものを追求できるようにしています。
先ほど述べたように、社員を2〜3人1組で各地の漁港や講演会、競合店視察などに行かせているのも、その具体的実践例の1つです。ただ、基本的には毎年2回の研修を通じて、経営理念※にもとづいた金沢まいもん寿司のあるべき姿のイメージを全員で共有するようにしています。そして、その中で『自分の店舗や自分自身は一体どういう存在でありたいか』を徹底的に考え抜くようにしています」
その研修で習得した理念は、日々、どのようにして具現化されているのだろうか?
「さまざまなテーマに関して、『どうすればもっと良くなるか』を考えさせ、解決策を従業員に提案させて、良いアイデアはどんどん採用するようにしています。
例えば、経営理念の中でうたっている『従業員満足』に関して一例を挙げるならば、『多忙を極める現場で有給休暇を消化するためには、どういう風にシステムを変えたらいいか』をみんなに考えさせ、具体的な方法を従業員自身に提案させたりしています」。
この経営理念は、本連載で取り上げた寝具最大手の西川産業の経営理念(&その運用)と通じるものがあることに気付かれる方もいるかもしれない。
自社がもうかればそれで良いということではなく、顧客・従業員(とその家族)・取引先・地域社会の利益(幸福)の増進を志向するものとなっていて、しかも、日常業務において、それが機能しているのである。
「誰かの犠牲の上に自社の発展を志向する」という時代は終わろうとしている。換言すれば、「法律さえ守っていれば、倫理的に問題があっても構わない」という時代は去り、日本資本主義の原点ともされる近江商人に代表される日本古来の商いの精神が、老舗か新興かの別なく、新しい時代の成功企業の指針になりつつあることが見て取れるのである。
大手100円寿司チェーンが大幅にシェアを拡大する中にあって、中小規模ながら金沢まいもん寿司は確固たる地位を占めることができているわけだが、この理念とその運用こそが、それを可能にしているファクターと言えるのではないだろうか。
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