都知事の“天罰発言”を聞いたとき、被災者の感情は相場英雄の時事日想・震災ルポ(2)(2/4 ページ)

» 2011年04月28日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 Tの実家はこの大曲地区にある。家業は漁業だ。地元漁港の漁船は津波に流されたものの、他の地域にも拠点を持っていることが幸いし、今後も漁業を続けていくという。とはいえ、生活の拠点である家は壊滅的な被害だ。床上まで津波が押し寄せ、住居の一階部分はヘドロに覆われてしまった。

友人の実家の自家用車。水没して廃車に(左)、床上浸水した友人の実家、リビングルーム(右)

 T家宅近くまで津波で流された住居があり、それらがせきとなる形で破壊を免れたという。ただ、家は原形をとどめているものの土台が傾き、当局による全壊認定を受けた。

 T氏を含めた3人の子供たちはそれぞれ独立し、残った夫妻は今後の生活をどうするか思案中だと聞かされた。全壊認定を受けたことで補助金は満額出る。ここに手持ちの資金を足せば、新たな家を作ることが可能ではないのか。筆者はそう尋ねた。だが、T氏は筆者を窓際に案内した上で頭を振った。

友人宅に隣接する畑だった土地。手前のクルマは流されてきたもの

 筆者がこの家を尋ねる前日の9日まで、同家に隣接する畑には海水が溜まったままだった。先に触れた通り、自衛隊の排水作業によって水が引いたあと、写真にある土地とその周辺からは三体の遺体が発見された。

 「亡くなった方々には申し訳ないが、両親は住み続けるかどうか真剣に考えている」と聞かされ、筆者は絶句した。

 また、たび重なる余震を受け、再度大津波に襲われることへの恐怖も根強く、これがこの地に留まるかどうか、尻込みさせているのだとも聞かされた。

 T氏の家族が巻き込まれたような事態は、東松島市や石巻市では決してレアケースではない。震災発生から1カ月以上たった時点でも、行方不明者の数が1万5000人を超えたままなのは、こうした事象が一般の家庭のごく身近で起こったからなのだ。

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