都知事の“天罰発言”を聞いたとき、被災者の感情は相場英雄の時事日想・震災ルポ(2)(3/4 ページ)

» 2011年04月28日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

“石原発言”への激烈な怒り

 T氏の実家から荷物の運び出しを手伝ったあと、筆者は石巻市に向かった。T氏の伯母が暮らす蛇田地区だ。実はこの家族、S家については、既に別の連載コラムで取り上げたことがある(参照リンク)

 同地区は津波被害が比較的軽微で、ライフラインの復旧も早かった。このため、家の浴室を近所に解放し、無料で“銭湯”としたのだ。

 お宅に伺った際、Sさんは震災の片付け中にも関わらず、筆者を招き入れてくれた。T氏から“銭湯”の話を聞いていたため、実際に自宅を開放した人物に接するとなぜか古くから知っているような錯覚に陥った。

 漁師の娘、気風の良い話しぶり、“肝っ玉母ちゃん”然とした雰囲気も初対面の彼女を身近に感じさせたのかもしれなかった。しばらく震災後の避難の様子を聞いていたところ、突然、彼女が激高する場面に遭遇した。その話題は、3月14日に石原都知事から飛び出した例の「天罰発言」だ。 

 今一度、石原氏の発言と、翌15日の撤回会見の言葉をチェックしてみよう。

 「我欲に縛られ政治もポピュリズムでやっている。それが一気に押し流されて、この津波をうまく利用してだね、我欲を1回洗い落とす必要がある。積年たまった日本人の心のあかをね。これはやっぱり天罰だと思う。被災者の方々、かわいそうですよ」(毎日新聞より)

 「行政の長であります私が使いました天罰という言葉が被災者の皆さま、国民、都民の皆さまを深く傷つけたことから、発言を撤回して深くおわびいたします」(産経新聞より)

 不用意発言としか言い様がない。実際、筆者もこの言葉を聞いた瞬間、頭に血が上った。Sさんは目に涙を浮かべ、筆者に訴えた。

 震災時、Sさんは地元医療機関に務めていた。大災害によって傷を受けた患者と間近で接し続けた。患者の中には、傷も癒えないうちに、行方不明になった家族を探しに行く人が少なくなかったという。Sさんは、遺体安置所で変わり果てた家族と対面してきた人にも多数接してきたと教えてくれた。この間、被災地はずっと停電が続いた。

 「電気が復旧した途端、テレビから『天罰発言』のニュースが飛び込んできた」

 このとき、Sさんの声は大きく震えていた。怒りが頂点に達していたのは間違いない。石原氏の発言と、電気の開通は直接の因果関係はない。ただ、Sさんのように、被災地の医療現場の最前線で、文字通り命のやりとりを重ねてきた人にとって、石原氏の発言は到底看過できるものではなかった。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.