天災の後は人災だ 壊れゆく地域社会相場英雄の時事日想(3/4 ページ)

» 2011年06月02日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

壊れた絆

 記事の執筆者は同紙の秋山裕宏記者だ。同記者は水浜の出身だったことから、集会には地元民の資格で参加した。

 抑制の利いた筆致で綴られた記事だが、この集会に至るまでに、地元民の間ではさまざまな葛藤があった。地区のまとめ役の1人によれば、長引く避難所暮らしで住民たちはストレスを溜め込んだという。

 水浜の住民たちは皆、家族同然だ。仮設住宅の建設はいつになるのか。全員分の戸数は確保されるのか。漁業に復帰するにはどの程度の費用が必要か。住民たちは次第に苛立ちを募らせたという。詳細はあえて記さないが、同地区では、筆者が知る家族・親戚間の揉め事と同じようなやり取りや口論が少なからずあったと聞かされた。

 集落の解散を決議した総会の終了後、肩を落とした住民たちの姿に接した。前回のルポ取材時と同様、今回も彼らにカメラのレンズを向けることはできなかった。

5月15日午前。高台の民宿から撮影。宿の手前まで津波が襲った

 地区のまとめ役は、筆者にこんな心情を吐露してくれた。

「道路や建物が復旧しても、一度壊れた家族や地域はどうなるのか」――。

 この言葉に接したとき、筆者は絶句した。被災地で接したさまざまな過酷な話と同様、胸が潰されるような思いだった。

 石巻日日新聞の記事にある通り、水浜の周辺地域ではこうした事態に追い込まれた集落が多数存在する。宮城県だけでなく、岩手県や福島県でも状況は変わらない。集落や家族の絆が崩壊に追い込まれたのは、東北沿岸部の膨大な地域に及ぶ。

 大畠国土交通相は5月17日、被災者向けの仮設住宅の全戸完成に向けた工程表を発表した。菅首相が提示したお盆までの入居方針について同相は、「おおよそ実現できるのではないか」と述べた。

 宮城県は被災者が自力で確保した賃貸住宅を県名義に変更し、仮設住宅として扱うことを決めた。

 結果論になってしまうが、国や宮城県、あるいは石巻市の支援や復興プランがもっと早く水浜の人たちに提示されていたら、彼らがあれほど落胆する事態にはならなかったのではないか。せめてあと1カ月前にこうした方針が伝わっていたら。筆者の個人的な見方だが、集落解散という事態は、明らかに人災だ

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